論説委員コラム「序破急」
「『オウム』の子どもたち」がいた静岡市の児童相談所の門の前は、かなり物々しかった。
もう30年も前になる。母親を名乗るオウム真理教の信徒たちと報道陣は道路側から、毎日のように門の向こうを見守っていた。中には、児童福祉法に基づいて教団施設から保護された4歳から7歳の14人の子どもがいる。
「悪魔が来た!」「早く帰れ!」
頭でっかちでヘッドギアをつけたままの姿が門越しに駆け寄り、私を指さし、はやし立てた。「だまされちゃだめ。この人、悪魔なんだから」「尊師さまの教えを守るのよ」。真横では門にしがみついた母親たちが、声を張り上げている。
地下鉄サリン事件から30年を迎えた今春、当時の取材ノートを読み返した。日々こと細かに児相が説明した、子どもたちの食事や生活、学習の姿は胸に迫る。
おかずを手づかみで食べる。揺れるブランコに平気で近づき、ヘリコプターの音に「毒ガスだ」と叫ぶ。逮捕と聞くと「警察が悪い」と反論し、日記に描くのは戦う場面。すべり台の上でも「サティアン」「地獄」の言葉が飛び交った。
子どもたちが児相に来たのは…