(25日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会準決勝 昌平1―0浦和実)
右足をあご近くまで高く上げ、左腕を真上から振り下ろす。「こんな投手、見たことない」
独特なフォームから繰り出す120キロ後半の直球。「速い球じゃないのに、なぜか打てない」
浦和実のエース左腕・石戸颯汰投手(3年)に打者は翻弄(ほんろう)され、そう口をそろえる。
この日の準決勝、昌平戦も順調そのものだった。九回裏、1死を三振で奪い、ここまで被安打2、8奪三振。1点も許していなかった。
ところが、初めて連打を浴びて一、三塁に。走者がかえれば、サヨナラ負けの場面だ。
スクイズが頭をよぎる。
しかし、打者は1球目を空振り。
ゴロさえ許したくない。それなら、空振りのとれる外角低めのスライダーで。120球目だった。
打者がバットを寝かせる。バットに当たった球が、グラウンドに転がる。
予想外の当たり。マウンドからの一歩目が遅れた。
捕球し本塁を見ると、滑り込む相手選手が。
あ、間に合わない。これが高校野球最後の景色になった。
創部50年。今春、初めての選抜出場だった母校を、準々決勝まで18回無失点で4強まで押し上げた実績は、あせない。
夏も甲子園へ。盛り上がるチームと対照的に、春以降、不調だったエース左腕。準決勝も8割程度という調子で快投を見せつけた。
「次こそ緊迫した場面でも抑えられる投手になる」。大学野球で悔しさをぶつける。