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極めて高いエネルギーの宇宙線「アマテラス粒子」を、2021年に米ユタ州にある検出器が捉えた時の想像図。宇宙線が大気とぶつかり生じた大量の粒子のシャワーを検出した(C)大阪公立大学/京都大学L-INSIGHT/Ryuunosuke Takeshige

<前編> 「スーパー宇宙線」を探せ!

 宇宙から地球に降り注ぐ、極端にエネルギーの高い粒子(宇宙線)が研究者たちを困惑させている。観測史上2番目に高いエネルギーを持つ「アマテラス粒子」も最近発見されたが、発生源はまったく分かっていない。現代物理学に大きな謎を突きつけている。

前編では、アマテラス粒子発見の衝撃と、過去に日本と米国で大論争となった「スーパー宇宙線」の謎について紹介します。

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 2021年夏。京都大白眉(はくび)センター特定助教の藤井俊博さん(現・大阪公立大准教授)は、研究室のパソコン画面に映った、普段とは桁違いの数字に目が止まった。

 眺めていたのは、米ユタ州の観測施設「テレスコープアレイ(TA)実験」が捉えた宇宙線の観測データ。244エクサ電子ボルト(エクサは10の18乗)というエネルギーの高い粒子1個が飛来してきたことを意味した。

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アマテラス粒子を検出したテレスコープアレイ実験の解析データ。2021年5月27日に243.61エクサ電子ボルトのエネルギーをもつ粒子が到来していた(C)藤井俊博さん

 「あれ? 大きいな」。ソフトウェアの間違いかと思ったが、見直した元データは「本物」を示していた。過去最大級のエネルギーを持つ粒子の到来。現地の明け方に検出し、発見者が日本人だったことから日本神話に登場する太陽神の名から「アマテラス粒子」と命名した。

 昨年11月に米科学誌サイエンス(https://doi.org/10.1126/science.abo5095別ウインドウで開きます)で発表すると、世界で2千以上のメディアが報道。アマテラス粒子は一躍、有名となった。

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テレスコープアレイ実験が行われている米ユタ州の荒野。琵琶湖とほぼ同じ約700平方キロに、検出器が望遠鏡が点在する(C)TA実験グループ

 ただ、研究者たちは手放しで喜んではいなかった。

 「発生源など新たな謎も出てきており、むしろ状況は混沌(こんとん)としてきている」と東京大宇宙線研究所の荻尾彰一教授は表現する。いま、何が起きているのか。

1グラムで地球を破壊するレベル

 地球には、宇宙のかなたから高エネルギーの粒子が宇宙線として降り注ぐ。地表まで達するのは低エネルギーのもので、私たちの体を毎秒100個ほど素通りしている。

 ただ、アマテラス粒子のような100エクサ電子ボルトを超す超高エネルギーの宇宙線がまれに地球に飛来する。

 そのエネルギーの大きさは圧倒的だ。蛍光灯が放つ光の粒子一個のエネルギーは約2電子ボルトなので、アマテラス粒子はその1垓(がい)倍(100000000000000000000倍)。仮に粒子が1グラム、つまり10の23乗個ほど存在すれば、地球を壊すほどの威力を持つ計算だ。

 そんな桁違いの宇宙線が最初に発見されたのは1962年。米ニューメキシコ州の荒野に並べた検出器が捉えた。人類が加速器で作れるエネルギーの1千万倍に達する「宇宙最強」の粒子は、どこからやってきたのか。謎解きが始まった。

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超高エネルギー宇宙線が宇宙のかなたから地球にまっすぐ飛び込んでくるイメージ(C)大阪公立大学/京都大学/Ryuunosuke Takeshige

理論限界を超えた「スーパー宇宙線」

 宇宙線の数はエネルギーが大きくなるほど少なくなり、アマテラス粒子レベルは1平方キロの面積に1世紀に1個ほどしか飛来しない。勝負は検出器を置く広さで決まる。装置の高性能化とともに観測例は増えていった。

 2000年前後、日米を中心に論争が起きた。

 元になったのは、ある予言だ…

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