光武孝倫医師(左)の診察を受ける植村真哉さん=長崎県壱岐市、玄州会提供

 玄界灘の離島の高校が勝ち取った甲子園出場が、地元の難病患者に「生きる力」をもたらした。

 第97回選抜高校野球大会(3月18日開幕)で21世紀枠に選ばれた長崎県立壱岐高校。球児をスタンドで応援したい――。壱岐市の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性がリハビリに取り組み始めている。

 男性は植村真哉さん(44)。34歳のときに足が突っ張るような違和感を覚え、整形外科や大学病院の受診を重ねた。35歳の時にALSであることが分かった。

 現在は自分の意思で体が動かせず、呼吸は人工呼吸、栄養は胃ろうから注入されている。妻の留美子さん(44)と訪問診療の助けを受けながら自宅で暮らす。テレビを見て、寝る。外出はなるべくしない。そんな日々が続いてきた。

 昨年の夏から、気分が落ち込むようになった。意思疎通は、ひらがなが書かれた文字盤を留美子さんがたどり、伝えたい文字が来ると、植村さんが視線やまばたきで合図を送る。

 「しにたい」

 「さしてほしい」

 そんな言葉が伝えられるようになった。

 植村さんを訪問診療している医師の光武孝倫さん(50)は、「病気だけではなく、人生全体を診る医師になりたい」と、離島の住民の健康を守る仕事に取り組んできた。投げやりになっている植村さんを何とかしたいと思っていた。

 昨年12月、地元の壱岐高校が21世紀枠の候補に選ばれたことが報じられた。地元は「100年に1度の奇跡」と、話題で持ちきりとなった。

 光武さんは留美子さんに、「真哉さんも甲子園に行きたいですかね。僕もついて行きますけど」と持ちかけた。

妻の問いかけに、植村さんが示した答え

 留美子さんは早速、「先生が…

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