むらた・よしひろ 1951年生まれ。料亭「菊乃井」3代目主人。菊乃井本店はミシュランガイドで三つ星を16年連続獲得。海外での日本料理の普及活動や、地域の食育活動を精力的にするほか、料理人の育成などにも力を入れる。2017年に文化庁長官表彰、2018年に文化功労者。新著に「ほんまに『おいしい』って何やろ?」(集英社)。

 テレビのグルメ番組やSNSで「おいしい」という言葉があふれています。また、飲食店が「○カ月待ち」と予約困難であることや価格が高いこと自体をもてはやすような風潮もあります。これらに警鐘を鳴らすのが、京都の料亭「菊乃井」3代目主人の村田吉弘さん(73)です。「和食」のユネスコ無形文化遺産登録の立役者で、「うまみ」を科学的にも追求してきました。「普通の人を遠ざける商売でええんやろか」と嘆く村田さんに、今の美食ブームに思うことを聞きました。

料理というより、情報を食べてる感じ?

 みんな、「おいしい」って言い過ぎちゃうか思てます。「おいしい」って、本当はもっと、深いもんなんちゃうやろかと。

 グルメ番組では料理を口に入れた瞬間、「うまい」「やばい」とか言うてるやん。「おいしい」っていうのはまだマシやけど、「やばい」はやめてほしいな。料理人からしたら、なんか異物でも入ってたんかいなと思ってドキッとするわ。まあまあ、演出も必要なんやろうけどね。

 料理というより、情報を食べてる感じやろか。わかりやすい見栄えとか、ブランド食材とか。

料亭「菊乃井」主人の村田吉弘さん=2025年4月7日午後1時56分、京都市東山区、新井義顕撮影

 そうなると、牛肉にウニとキャビアのせて……みたいなもんがもてはやされる。脂質が多いもの、やわらかいもの、甘みのあるものが「おいしい」と。

 でも、料理というもんは、皿の中だけの話やないはず。本当は、心で感じる、もっと深いところにおいしさってあると思う。

 本来の味わい、歴史、文化の奥深さを見失ってしまっている気がしています。

八坂神社近くの京都・東山にある菊乃井本店=京都市東山区

「おいしい」に勝る一言

 こんな話がありました。

 病気で長いこと入院してはった80過ぎのおじいさんが久しぶりに菊乃井にいらっしゃった。

 庭には梅が咲き、そこにフキ…

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