そこにいる誰もが、そわそわしていた。
2月26日、能登半島の先端、石川県珠洲市狼煙(のろし)町の集会所。
元日の地震による断水が、この3日前に解消した。「水が戻ったら迎えに行く」と自ら約束したとおり、区長の糸矢敏夫さん(69)がマイクロバスのハンドルを握り、県南部に2次避難したお年寄りたちを迎えに出かけていた。そろそろ帰ってくるはずだ。
【連載初回はこちら】避難所で始めた「復興会議」
能登半島の先端にある「狼煙」集落。地震で傷つき、まちの再生に向けて模索を続けた住民たちの1年を追います。
海側の道から来るのか、山側の道から来るのか。いまにも到着するのではという直前、馬場千遥(ちはる)さん(33)は、歓迎の札を掲げて出迎えたいと思いつく。手近にあった段ボールに、油性ペンで大きく書いた。
「おかえり!」
マイクロバスが到着し、お年寄りたちが続々と降りてくる。
1カ月半ぶりの再会に、手を握りあったり、ハグしたり。みんな涙で、「おかえり!」がどのくらい目に入ったかはわからない。
総勢30人ほどで大歓迎会が催された。
避難所が閉鎖、「一つずつ」前へ
元日の地震で被災した住宅の漏水や浄化槽などの修理が徐々に進み、住民たちは避難所となっていた集会所から、少しずつ帰宅していった。
3月17日、最後の馬場さん…