子どもが、自分自身のルーツや出生の経緯などを知る「出自を知る権利」。この権利を保障するため、法整備も視野に入れた議論が熊本で進んでいる。年内にも報告書をまとめ、国に提出する予定だ。
出自を知る権利は、国連の「子どもの権利条約」にも明記され、子どものアイデンティティーの形成に重要だと言われている。海外では法律を整備する国もあるが、日本では、第三者から精子や卵子の提供を受けて生まれた子や、養子に迎えられた子についても、保障する法律はない。
熊本で議論が進む背景には、親が育てられない子を匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」や、周囲に知られることなく病院で出産できる「内密出産」に取り組む慈恵病院(熊本市)の存在がある。国に法制化を求めてきた病院と市が2023年5月、有識者による検討会を共同設置した。
病院では21年12月以降、今年7月までに30人が内密出産で生まれた。22年9月、厚生労働省と法務省は、内密出産の手順や女性の身元情報の保管に関するガイドラインを公表。しかし、名前や住所、生年月日などの身元情報は「医療機関が保管するのが望ましい」としたが、内密出産に至った経緯など、どのような項目が保管すべき「出自情報」にあたるのかの定義や、子どもが情報にアクセスできる年齢などの「開示時期」も含め、具体的な手順は示されなかった。
07年に開設された「ゆりかご」には、これまで179人が預け入れられた。病院には、成長した子どもから「お母さんがどんな人なのか知りたい」といった問い合わせが来ているという。
「匿名性」と「知りたい」の間で
内密出産やゆりかごに預け入れる女性たちが希望する「匿名性」を守りながら、子どもの「知りたい」という思いにどう応えるのか――。熊本市内で今月6~7日、シンポジウムが開かれ、率直な意見が交わされた。慈恵病院が主催し、記者もコーディネーターとして登壇した。
慈恵病院の蓮田健院長は「女性に関して記録が残っているケースもあるが、子どもが知って喜ぶ情報は少ない」と説明。「近親姦(かん)やレイプによる妊娠など、子どもにどこまで伝えたらいいのか」と、当事者としての悩みを話した。
石黒大貴弁護士(熊本県弁護…