小町史華さん(右)と一嘉さん=2024年3月27日、石川県珠洲市、藤谷和広撮影
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 崩れた家屋、傾いた電柱、ひび割れた道路――。能登半島地震の傷痕が色濃く残る石川県珠洲市のまちなかで、2人のハーモニーが響く。「のとのおと」と名付けたユニットが始めたインスタグラムの動画は、30本近くに上る。

 小町史華さん(30)とめいの一嘉(いちか)さん(13)。3月27日、珠洲市正院町(しょういんまち)の千光寺の前に立った。

 「せ~の」

 一嘉さんの弟(11)がカメラを手に持ち、合図を出す。アンジェラ・アキさんの「手紙~拝啓十五の君へ~」を歌う2人の伸びやかな声が、境内に響き渡った。

 正院町は2人の地元。一嘉さんは千光寺で開かれるピアノ教室に通っていた。ピアノの先生は無事だったが、建物の被害は大きく、教室は再開できていない。

 「また先生のレッスンを受けたい」

 一嘉さんはそんな思いを込めて歌った。

 地震が来たのは、互いの家を行き来しながら、のんびり過ごしている時だった。家はどちらも倒壊を免れたが、近くの小学校に避難した。

 史華さんの父が避難所運営を担い、家族総出で仮設トイレを作ったり炊き出しをしたり、忙しく動いた。

 10日ほど経ち、史華さんは片付けの進んだ一嘉さんの家に身を寄せた。でも断水や停電は続き、楽しみがない。

 久しぶりについたテレビを見て、「もう被災地への関心が薄れている」と感じた。「何かしたいね」と話し合い、2人が好きな歌で動画を作ることにした。

 2人にとってなじみの深い場所で撮影を始めた。

 「ケセラセラ」「上を向いて歩こう」……。

 好きな曲やフォロワーから要望があった曲を選び、歌う。2カ月余りで、インスタに投稿した動画は28本になった。

 動画を見る人のなかには、同じ被災者もいる。

 「先が見えない不安の中、笑顔を忘れていたことにハッとした」「一緒にがんばろう」といったコメントが寄せられた。

 一嘉さんは「応援してくれる人がいてよかった」と喜ぶ。習い事でコーラスもしていて、「やっぱり歌うのは楽しい」と実感している。

 東京で教育の仕事をしていた史華さんは、体調を崩して昨秋、約10年ぶりに故郷に帰ってきた。

 戻れる場所があることのありがたさをかみしめ、さあ再出発。そう思っていた矢先の地震だった。「歌うことで心を保っている。自分の復興にもなっている」という。

 4月からは県内の特別支援学校で働くが、「のとのおと」の活動は続けていく。地元でマルシェ(市場)を開くため、仲間集めにも奔走する。

 「いつでも戻ってきてね。そう言える場所にしたい」

 「のとのおと」のインスタグラムは@notonooto1.1。(藤谷和広)

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