【秋田】高校野球の発展につくした人へ日本高野連と朝日新聞社が贈る育成功労賞に、今年度は県内から能代の責任教師、納谷聡さん(61)が選ばれた。「名将がいうような名文句はありません。ひたむきにやりなさい、とだけ言ってきた」と、選手に寄り添い続けている。
小坂や湯沢商工などでのコーチをへて1992年、母校の能代で初めて監督に就いた。自身の高校時代はひざの故障もあり、2試合しか背番号をつけて出場していない。日体大では基礎スキー研究会。指導者として経験不足を感じ、悩み考える日々だった。
やがて選手を信じる、という心境に行き着く。「余計なことはするな、と自分に言い聞かせた」。もちろんうまくいかないこともある。それでも高校生の無限の可能性にかけてきた。
就任1年目の夏、金足農との地方大会決勝。1点リードの九回1死一、三塁のピンチで、この日5打点の打者を迎えた。敬遠で塁を埋める策もあったが、自身初めての伝令をマウンドのエースに送った。「お前で負けるんだったら、みんな納得する。思い切っていけ」。2者を打ち取り、甲子園出場が決まった。
普段から、守備位置につくときも、たとえ凡打でも、いつでも全力疾走するよう促してきた。
「ヒットを打てとは言わない。やれることを全力でやり切れということ。試合には9人しか出られない。選ばれた人間ならできるはずなんです」
能代のあと、鷹巣農林、能代工で選手に向き合い、2021年4月、再び母校に。23年秋、監督を教え子にバトンタッチした。
コーチを含めると指導歴は38年余り。「勝てる指導者とは思ったことはない。生徒たちが勝たせてくれた。感謝しかない」。8月15日、全国高校野球選手権開催中の阪神甲子園球場で、受賞者の代表8人の1人として表彰される。