ホームヘルパー国賠訴訟の報告会で「ヘルパー不足は国の責任」と大書した横断幕を掲げる原告ヘルパーや支援者ら=5月18日、東京都渋谷区

記者コラム「多事奏論」 編集委員・清川卓史

 訪問介護は、介護保険の柱となるサービスの一つだ。もし、自分や家族の介護が必要になったとき、自宅に来てくれるホームヘルパーが誰もいなかったら――。想像するのも恐ろしいが、そんな危機が目前に迫っている。

 ヘルパーの有効求人倍率は14倍を超え、「絶滅危惧種」と言われるほどの人材難に苦しむ。高齢化も深刻で、60代、70代が介護現場を支えている。

 こうしたなか、現役ヘルパーとして働く女性3人が、国を相手に起こした裁判がある。「ヘルパーの厳しい労働環境と人手不足は国の責任だ」と訴え、損害賠償を国に求めたのだ。

 この「ホームヘルパー国家賠償請求訴訟」が2019年に東京地裁に提訴された時から、私は取材を続けてきた。

 20年元日には、原告の一人である佐藤昌子さん(70)の訪問介護に同行し、ケアの専門性の高さを肌で感じた。人手が足りず、佐藤さんは元日から正月休みを返上しての8連勤だった。

 「若いヘルパーがいない。私たち(の世代)を誰が介護してくれるのでしょう」。次の訪問先への移動中、そうつぶやいた佐藤さんの言葉が記憶に残る。

 裁判の焦点は、「登録ヘルパー」と呼ばれる働き方だった。キャンセルの場合や移動・待機時間の賃金が未払いだったり不十分だったりで、拘束時間が長いのに賃金が低くなってしまう。

 「この問題は労使の交渉では…

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