世界で初めて人工知能(AI)を包括的に規制する「AI法」が8月、欧州連合(EU)で発効した。特に人間のように文章や画像を作り出せる生成AIは開発途上の技術のため、開発を促す「アクセル」とリスクを避けるための規制の「ブレーキ」とのバランスが難しい。法律の策定にあたり、どのような思いが込められたのか。AI法の起草に携わり、審議を主導したドラゴス・トゥドラケ前欧州議会議員(49)に聞いた。
- AI規制、日米も法整備へ転換 ChatGPTの登場が契機
EUの行政を担う欧州委員会がAI法を提案したのは2021年4月のこと。当時、AIが人間の知能を超え、社会や人類のあり方が大きく変わる「シンギュラリティー」が、盛んに取りざたされていた。「そもそもAIの使い方の何が正しくて間違っているのか、開発する企業がそれぞれに判断する現状で良いのか。人類への脅威だけでなく、市民の日常的なリスクにこそ光を当てなければ、そもそも信頼を持ってAIを使えないのではないか」と法制化の背景を語る。
EUのAI法は、民主主義や基本的人権などを守りながら、人間を中心とした信頼できるAIの普及を目的とする。技術そのものではなく、AIの使い方による影響のリスクを分類。リスクが高いほど規制は厳しくなる。たとえば、顔認証をリアルタイムで使う犯罪捜査や、犯罪行為を促すために潜在意識を操作するようなサブリミナル技術は、リスクが極めて高いとして禁止されている。プライバシーなど市民の権利を守るために制限をかけ、事業者には説明責任などの義務を課す。
「この法律は、ジキルとハイドのような『二つの人格』がある」という。どういう意味か。
その性格を強めたのが、生成…