帝国の幻影~壊れゆく世界秩序~「勢力圏」のはざまで【4】
「カナダを米国の51番目の州に」
トランプ米大統領がそう言い始めたころ、多くのカナダ人が悪い冗談だと思っていた。
その空気を一変させたのが2月7日、トロントであった「カナダ・米国経済サミット」だった。
- 【前回はこちら】「米国の正しさ」に無関心なトランプ氏 理想は米中ロ「三頭政治」か
カナダ自動車部品工業会のフラビオ・ボルペ会長(49)は壇上に座り、トルドー首相(当時)のすぐ後ろで演説を聞いた。冒頭のあいさつが終わると、トルドー氏は、トランプ氏がカナダの資源権益への野心を示していることを説明し始めた。
「その最も簡単な方法として我が国の併合を考えている。本気だ」。会場に動揺が広がった。
ボルペ氏はその場で「この認識は正しい」と直感した。「カナダの財界人や政治家らが集まっていたあの場で、トルドー氏が『本物の危機なのだ』と率直に伝えたことには意義があった」
公共放送CBCがこの非公開の発言を伝えると、国内外に衝撃が広がった。トランプ氏はその後、カナダの鉄鋼・アルミ製品や車などに対する関税措置を発動。カナダも報復措置を決めた。
長い地続きの国境で接した米国とカナダは、戦後の「リベラルな国際秩序」の礎石と言える関係だった。米国主導の貿易拡大と同盟国の安全保障がこの秩序の柱だが、両国は北大西洋条約機構(NATO)や北米自由貿易協定(NAFTA、現USMCA)で軍事・経済的に緊密に結びついてきた。
その信頼は今や、見る影もない。
アメリカ帝国の崩壊に「飲み込まれる」
ボルペ氏は、カナダにとって…