骨太の香港アクション映画が久々に日本でヒット中だ。レイモンド・ラム主演で、ルイス・クーやアーロン・クォック、サモ・ハン(・キンポー)ら重鎮スターががっちりと脇を固めた「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」。その映画でアクション監督を務めるのが、映画「るろうに剣心」シリーズでも同じ仕事を務めた谷垣健治さんだ。香港のアカデミー賞とも称される「香港電影金像奨」の最優秀アクション設計賞でノミネートされるなど、香港アクション界の中心的人物だ。2月の帰国時に話を聞いた。
ルイス・クーのあの場面からスタッフも「乗った」
――1980年代の香港のスラム街を舞台にした映画は現地の郷愁も呼び、観客動員数は香港における歴代1位を記録、日本でもヒットしています。SNSにはファンアートも多く投稿され、女性誌「レタスクラブ」が劇中に出てくる「叉焼飯」のレシピを紹介するなど、女性人気も盛り上がっています
「日本では女性のお客さんが多いと聞いて、意外でした。撮影中は、誰にどう受け入れられるかなんて考える間もないくらい大変だったんでね……」
――九龍城砦を再現するため、セットに10億円かけたという大作でした
「本当は中国・広州で撮ろうとしていたんですが、ちょうどコロナが感染爆発して。それで人件費も物価も高い香港でセットを作ることになりました。アクション部は日本や中国から呼んだんですが、渡航も厳しい時期でしたね。今ある条件の中でやれることをやろうという感じでした。九龍城砦を再現するために廃校になった小学校を使ったほか、たとえば、アーロン・クォックとルイス・クーの決闘の場面は、屋外に設置した通路にトタンで屋根をつけたりした即席のセットで撮りました。お金をかけるところにはかけましたが、むしろ全員の工夫で全撮影を乗り切ったという感じでした」
――序盤、主人公と九龍城砦のボスが理髪店で出会い、闘う場面に魅了されました
「あの理髪店の場面は、クランクインした初日とその翌日に撮影しました。ルイス・クー演じるボスが、吸っていたたばこからポンと手を離して、たばこが空中にある間に、バババババッと主人公をやっつけ、何事もなかったようにまたたばこを手にとる。『んな、あほな』じゃないですか。でも、ここでうまくリアルをちょっと飛び越えることができて『うそのつき方』が決まった。スタッフたちもこの撮影から、うまく乗せることができたような気がします」
――「アクション監督」とはどういうポジションなのでしょうか。日本ではあまり聞き慣れない言葉です
「日本にも近い役職はあったかもしれませんが、香港では、アクションに関することならば、アクション監督にあたる動作導演が撮影にも編集にも演出にも携わります」
「たとえばカメラも(アクションの振り付けを)覚えないと動きを追えない。だから『るろうに剣心』で、(佐藤健さん演じる主人公)剣心が飛び降りる場面では、僕がカメラを持って一緒に飛び降りながら撮影しました。編集にしても効果音の種類にしても、アクションのリズムや迫力がちゃんと表現されるように関わりたいですね」
「でも、従来あった殺陣師とかスタントコーディネーターという立場だと、なぜ管轄外のことに口出しするのかと言われてしまう。『アクション監督』という言葉は、日本で仕事をするときに自分の居場所を正当化するための『抑止力』として使い始めたんです」
「一発OKか、病院に行くか」だった昔の撮影
――谷垣さんも、かつてはスタントとして多くの監督の「むちゃぶり」に応えてきました
「僕もむちゃぶりはしますよ。でも、その質が昔とは違う。つまり、僕がスタントマンだった頃は、建物の3階から下にドーンと落ちるような、本当に危ないことをやっていた。それだと、一発OKか、病院に行くかのどちらかで、いずれにしても一発勝負で終わっていました」
「今は、危ない場所には全部ウレタンを張ったりCGや合成なども使ったりして、あらゆるところでケガをしない工夫をしている。つまり安全な分、いわゆる『マネーショット』(最高の場面)が撮れるまで何テイクでもやることになります。スタントだけじゃなくて、役者たちもいい画が撮れるまで何回でも挑戦する。必死にぎりぎりのところでやっている人は魅力的じゃないですか。役者たちは本当に毎日必死で、みんなフェロモンを出しまくりだったと思います。それが女性人気につながったのかもしれないですね」
テレンス・ラウが殴られる場面では
――今はCGで場面を合成する技術も進化していますが、それでも実際に生身の俳優がアクションをすることの意味とは何ですか
「殴ったり殴られたり、追い…