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報道機関に公開された東京拘置所の「刑場」の「執行室」。右奥の床から壁づたいに取り付けられた金属の輪にロープを通し、天井の滑車からつり下げる=2010年8月27日午前、東京都葛飾区
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記者解説 大阪社会部・山本逸生

 命を奪う究極の罰である死刑。それが今、揺らいでいる。静岡一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判が5月に結審し、9月の判決では無罪となる公算が大きい。無実の人を死刑にしてしまう懸念が突きつけられている。死刑囚はある朝に突然告げられて刑場へ連れて行かれることになっており、運用面でも疑問の声はある。

 そのあり方を問う訴訟が大阪で起こされている。いつ執行されるのか当日の1~2時間前まで知らされないのは憲法違反だと、死刑囚2人が訴えたものだ。

 刑事訴訟法は、刑の執行に不当な処分があれば「異議申し立てができる」と定める。判例上、異議申し立ては検察官が刑の執行を指揮した後にできるが、そもそも当日に告知され、弁護人や家族に連絡できないまま絞首台へ連行される現在の運用では「申し立ての権利を実質的に骨抜きにしている」と主張した。

 原告側は、当日の告知では自らの死を受け入れる時間を持てず、憲法13条から導かれる自己決定権(人格権)が侵害されるとも訴えた。

 実は執行を事前に告知していた時代もあった。原告側は1955年の録音テープを証拠として出した。執行2日前に告知を受けた死刑囚の肉声を収めたものだ。執行前に姉や教誨(きょうかい)師と面会したり、送別の俳句会に参加したりする様子が記録されていた。原告側は元刑務官や元検察官の証言などから、70年代までに同様の運用が少なくとも4件確認されているとした。

 国側は過去に事前告知していたことは認めた。前日に告知した死刑囚が自殺した事例があり、運用を改めたという。その上で、告知は遺体・遺品の扱いの確認などのために施設長の裁量で行うもので、そもそも死刑囚には「告知を受ける権利がない」と主張。異議申し立てについては、当日でも機会はあるなどとした。

ポイント

 死刑制度への関心が高まるなか、運用のあり方をめぐる裁判が続いている。国は多数の世論の支持があると強調するが、実情は国民に十分伝えられていない。世界では廃止の流れが加速する。議論を深めるためにも情報公開を進めるべきだ。

 今年4月の大阪地裁判決は原…

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