医師の中でもとくに激務の外科医は、女性の割合が1割にも満たない男社会だ。そんな中、「手術の機会が男性より少ないのではないか」と感じてきた消化器外科の女性医師たちが、差別の実態をデータで示し、学会を動かした。その立役者の1人、大阪医科薬科大助教の河野恵美子さんに、ジェンダーバイアスを可視化する意義について聞いた。
――長男を出産後、「干された」そうですね。
2006年に出産した当時、周りに子育てしながら働いている医師は誰もいなかったんです。育休を取るよりも、自分が辞めて大学から代わりの医師を派遣してもらった方が同僚も助かるだろうと思って。退職して1年間、専業主婦をしていました。
育休後、「子育て支援日本一」と言われる市中病院に再就職しました。病院から徒歩1分のところに住み、覚悟を決めて復職したのですが……。ふたを開けてみたら「24時間、365日仕事できない人に患者の命を任せたらあかん」と言われ。病棟で主治医になることも、外来を担当することも許されませんでした。執刀なんて夢のまた夢でした。
私自身は出産前も後も変わっていないのに、周りが自分を見る目が全然違うことに戸惑いました。「先生はおってもおらんでもどっちでもいい存在やからな」と言われたこともあります。
忙しいのは我慢できるけど、やることがないという状況は本当にしんどいということを、身をもって知りました。復職から3カ月後、外科の主任部長に退職を申し出ました。
「先生、辞めたらあかん」毎朝8時に電話
――でも、辞めなかった。
主任部長は呼吸器外科医だっ…