Smiley face
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東海大熊本星翔―北海 試合に勝ち、校歌を歌う東海大熊本星翔の選手たち=内海日和撮影

 第107回全国高校野球選手権大会で東海大熊本星翔は、2年ぶり4回目の出場で念願の甲子園初勝利をつかんだ。厳しく自分たちを律しながらも仲良く野球を楽しむ姿が印象的なチームだった。

 シーソーゲームの末に惜敗した県岐阜商との2回戦。連打をあびてピンチに追い込まれた五回途中、選手がマウンドに集まり、破顔一笑した場面がある。チーム一の「盛り上げ担当」樋上太河選手が伝令に走り、「次の試合に使う一発芸は、とってあるからな」と言って、みんなを笑わせたのだ。

 自分たちで考え、日々の練習を進める。監督やコーチが途中で何かを指示することはない。自分たちの野球がしっかりあり、試合でぶつけるべく鍛錬していた。春から夏へ。めきめきと技量を上げていく様子は、見ていてワクワクした。

 取材で同行するうち、野仲義高監督の独特の手法が少し読み取れてきた。時には「ああ、これは逆説だな」と感じた。たとえば1回戦。好機に長迫夏輝選手がスクイズを失敗したが、ベンチの監督の笑顔にも励まされ、懸命に出塁して挽回(ばんかい)し、猛攻につなげた。

 試合後、取材陣には「私のミスをカバーしてくれた」と語っていたが、あれが野仲監督流の選手とのコミュニケーション術だ。ベンチからの笑顔は「ではどうするか」と考えさせるメッセージだ。次打席でも長迫選手には犠打のサインが出たが、自分の判断で打撃に切り替え、成功している。「サインと違うプレーも認められている。出塁した走者とのやりとりで決めた」。星翔らしさだ。

 成功するかは、時の運もある。熊本大会や甲子園の1回戦では、見事なまでに必勝パターンがはまった。だが2回戦で、勝利の女神はそっぽを向いた。勝敗を分けた相手の4点目は、一塁手前でのイレギュラーバウンドが原因だ。試合後に泣き崩れた2年生の一塁手は「来年もここに来る」と誓っていた。3年生たちがその肩をたたいていた。

 冷静にチームをまとめる比嘉健太主将、どっしり構えて仕事をこなす4番の大賀星輝選手、走攻守そろった野球巧者の福島陽奈汰選手……。同級生や後輩が彼らを「師匠」と慕って後を追い、互いを高め合っていた。いいチームだった。

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