園児との泥んこ遊びで笑顔を見せる「旅と学びの協議会」のメンバーたち=2025年7月14日、長野市上ケ屋のこどもの森幼稚園、志村亮撮影

 旅を学びにいかす。そんな目標をもったおとなたちがこの夏、移住増をめざす長野県のこどもたちと交流した。どんな化学反応があったのか。

 交流したのは航空大手ANAホールディングス(HD)が中心になって2020年に設立した「旅と学びの協議会」のメンバー。

 大学や企業、自治体など43団体が参画。旅の効用を科学的に検証して社会人教育などにいかす目標をもって毎年、各地を訪ねている。

 この夏は、長野市の学校法人「いいづな学園」を訪問先に選んだ。学園は標高約1千メートルの飯綱高原で自然環境をいかした教育に取り組む。「教育移住」のこどもの受け入れにも積極的だ。

 10人ほどのメンバーが7月14日に学園の「こどもの森幼稚園」を訪れ、まず園児にとっては日常の泥んこ遊びを体験した。ゴム敷きの傾斜を滑って泥の池に飛び込むなどして歓声をあげた。

園児らが見守るなか、泥の池に飛び込む「旅と学びの協議会」のメンバーたち(画像の一部を加工しています)=2025年7月14日、長野市上ケ屋のこどもの森幼稚園、志村亮撮影

 川崎市から来たANAHDの殿元綾花(あやか)さん(36)は長男の湊士(そうし)くん(5)、次男の渓士(けいし)くん(3)と参加した。園児たちが「ドロパン」と呼ぶ汚れてもよい服装に着替えて駆け出す。それを見た我が子に「きょうは汚れてもいいの?」と聞かれ、はっとした。

 「都市で余白のない日々を送っていると、公園でその気がなくても後から面倒だから汚さないでという空気を出しているかもしれない。知らない間にこどもの感性を閉じ込めているかもしれないと考えさせられました」

 尻込みしていた湊士くんと渓士くんも最後は泥だらけだった。移住は難しいが、2拠点居住を夫と考えてみたいという。

五感がいきるのが旅の良さ

 メンバーたちは学園の「グリーン・ヒルズ小学校/中学校」に移り、生徒と旅を語り合った。インターネットでバーチャルな旅を楽しめる時代になった。だが、味覚や嗅覚(きゅうかく)を含めた「五感」がいきるのがリアルの旅のよさだ、といった話をした。

おとなとこどもが旅について話し合った=2025年7月14日、長野市富田のグリーン・ヒルズ小学校/中学校、志村亮撮影

 中学校の生徒たちはちょうど秋の探究旅行の準備をしているところだった。旅好きのおとなたちから様々な体験談を聞いた3年の飯島夏実さん(15)は「旅はめっちゃ楽しいけどめっちゃ疲れるという言葉が心に残った。ハプニングやヒヤヒヤも含めて旅で、それで成長することもあるんだと思った」と話した。

 長野県は移住増を政策目標とし、自然に恵まれた教育環境をアピール材料の一つにしている。いいづな学園も園児約50人の約2割、小中学校の児童生徒約30人の約4割は、教育移住で県外から来ているという。こどもの森幼稚園は、自然保育に熱心と県が認定する特化型の「信州型自然保育認定園」に選ばれている。

 航空会社も人口減に危機感をもつ。2拠点居住や関係人口の移動が増えれば需要につながる。メンバーとして参加したANAHD上席執行役員の津田佳明さんは「飛び込んで知った泥の味はまさに五感体験だった」と訪問をふり返り、こう語った。

 「人口減のなかで移住者を奪い合えば消耗戦になる。関係人口なら『共有』が鍵のシェアリングエコノミーの考えにつながる。旅が、首都圏生まれの人たちが第二のふるさとをもつきっかけになればいい」

共有
Exit mobile version