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神奈川県藤沢市長選で、新顔候補の陣営は「藤沢市長の多選は条例違反」などののぼりを立てた=2024年2月11日、JR藤沢駅南口、足立朋子撮影

 地方自治体の首長をめぐる「多選自粛条例」。かつてはブームになって全国各地で制定されたが、いまやその7割が廃止または失効した。ブームはなぜ去り、何を残したのか――。

 「批判もあり、大変厳しい選挙だった」。神奈川県藤沢市長選が投開票された2月18日夜、4選を決めた現職の鈴木恒夫氏(74)は、事務所を埋めた支援者らにこう語った。

 「批判」の一つが、市の多選自粛条例に抵触しているというもの。新顔候補が鈴木氏を批判する狙いで訴えていた。

 条例は「市長は3期を超えて在任しないよう努める」と定める。「3期12年まで」を公約に掲げて当選した海老根靖典前市長が提案し、2008年に制定された。「権限が集中する長の地位に一人の者が長期にわたり在任することにより生ずるおそれのある弊害を防止する」と目的に掲げる。

 ただ、あくまで努力規定で、鈴木氏は立候補に当たって「条例違反ではないことは確認して出馬した」と説明。選挙後、「時代にそぐわない内容だ」とこぼした。

杉並区が第1号、その後全国に拡大

 「権力は腐敗する」として、多選を抑制すべきだとの論議は古くからあった。ただ憲法は立候補の自由を保障しており、条例などで制限するのは見送られてきた。そこで登場したのが「自粛」条例。03年に当時の山田宏・東京都杉並区長が提案し、国内で初めて制定された。

 その後、06年に現職知事3人が官製談合への関与を理由に相次いで逮捕されると、各地に拡大。一般財団法人「地方自治研究機構」のまとめでは、10年代中ごろまでを中心に、北海道から九州の27自治体で制定された。07年には神奈川県で、当時の松沢成文知事が主導し、唯一の多選「禁止」条例も成立(未施行)した。

 全国の条例を調べた同機構顧問の井上源三さんによると、連続3期超を「多選」とし、新顔が現職に挑む選挙の公約に掲げて当選後に条例化するのが、典型的なパターン。ただ施行時の首長のみを自粛の対象とし、本人の引退とともに失効したり、廃止されたりすることが多い。藤沢市のように代替わり後も続くのは少数派だという。

 最近では後藤田正純・徳島県知事が自身を対象とする多選自粛条例を提案し、昨年施行された。これを含め、現在条例があるのは全国で7自治体。廃止や失効を前に有権者が積極的に異を唱えることは少なく、埼玉県や神奈川県厚木市などのように、条例制定を主導した首長が4期目に出馬し、当選後に廃止されたケースもあった。かつてのブームについて、井上さんは「有権者の要望ではなく、候補者の政治的パフォーマンスの意味合いが強かったのではないか」とみる。

制定した首長経験者は「大切な条例」

 一方で、異なる思いを持つ人…

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