ブランド米コシヒカリの中でもひときわ人気の高い魚沼産の産地、新潟県魚沼市。6月下旬、青々と稲が育つ田を見渡しながら、農家の関隆さん(73)は「いまのところ生育は順調」と話す。
26歳の時、この地で米作りを継いだ。当時の作付面積は3ヘクタールだけだったが、徐々に拡大。現在はもち米も含めて90ヘクタールを、従業員5人と妻と次男を含めた8人で耕す。
そんな関さんの半世紀の歩みのなかで、今春、「こんなことは初めて」という異例の事態が起きた。
付き合いのなかったところを含めて7業者から「秋に収穫する新米を売ってくれ」と引き合いがきたのだ。「令和の米騒動」と騒がれる価格高騰のさなかのことだ。
収穫した米の大半を農協(JA)を通さずに独自販売する関さん。提示された買い取り価格は「そんなばかな」と思うほど高かったという。
今年収穫される米の争奪戦は、JAが農家に前払いする「概算金」にも表れている。JA全農にいがたは、一般のコシヒカリ(1等米、60キロ)で前年(当初)より3割以上高い2万3千円を提示し、最終的には2万6千円以上を目指している。
高価格は農家の収入増につながる。なのに、関さんの表情は浮かない。経験豊富な大規模農家として、大きな危機の予兆を感じるというのだ。
消費者の大きな関心を集めた「令和の米騒動」。米価高騰が少しずつ正常化する一方で、進行している危機があります。米どころ新潟の農家だからこそ感じる担い手農家の課題とは。
30集落に500枚 ばらばらの田を任され
危機とは、後継難による農家…