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国籍法の違憲確認訴訟で、東京地裁に入る原告の弁護団。前列右が仲晃生弁護士=2021年1月21日、東京・霞が関、阿部峻介撮影

弁護士・仲晃生さん寄稿

 近年、明治時代の呪縛のせいで不可視化され声を封じられてきた人たちが、訴訟を通じて社会に声を届けるケースが増えてきています。夫婦別姓を求める訴訟、同性婚を求める訴訟、日本国籍の剝奪(はくだつ)は許されないとする訴訟などです。

 2025年は、「明治の呪縛」から脱却して、すべての人が等しく幸福になれる社会の実現へ大きく前進する1年になることを期待しています。

 弁護士として、①離婚や②性別取り扱い変更などの家事事件、そして、③在日外国人の支援活動に取り組んでいるとつくづく感じることがあります。①については「夫婦別姓」など多くの問題にからみます。②には戸籍制度の問題があり、「婚姻の自由」にもからんできます。これらについては後段でお話ししたいと思います。まずは、③の在日外国人支援から、話を始めさせていただきたいと思います。

 まず知っていただきたいのは、異国で外国人として暮らしていくことは、世界中どこの国でもとても大変だということです。

 習慣も違い、法律も法制度もよくわからない。そんな中で、出身国のコミュニティーや地域の住民に支えてもらってどうにか生活を成り立たせ、地域社会に時間をかけてなじんでいく。それだけでも大変ですが、日本人であれば心配無用のトラブルに巻き込まれることがあります。

誰もが直面しえる外国生活の現実

 こんな事件がありました。

 日本人男性と結婚して「日本人の配偶者」という在留資格で暮らしていた外国籍の女性が、夫から入管(出入国在留管理庁)に通報されました。夫婦関係が破綻(はたん)したから妻の在留資格を取り消して日本から追い出してほしい、という通報です。私はその女性と支援者から相談を受けたのですが、事情を確認すると、夫がなかなか問題のある人物で、妻に対する経済的虐待・遺棄はあっても、妻に離婚を強いられる理由などありませんでした。最終的に、夫婦は裁判で離婚しましたが、妻は夫婦間の日本国籍の子どもの親権者として日本で暮らしつづけることができました。もし支援してくれる人や弁護士にたどり着けなかったら、この女性は日本から追放されていたでしょう。

 在日外国人の暮らしは在留資格で制約されています(ちなみに在留資格による管理制度は、今の憲法が制定された時にはまだありませんでした)。

 永住者や定住者、「日本人の配偶者等」の在留資格なら活動の制約はありませんが、そのほかは違います。在留資格ごとにできる活動が定められています。

 たとえば留学生は、入管の許可を得た上で週28時間以内のアルバイトしかできません。永住者や定住者でも、日本人に限られている仕事には就けないので、キャリアアップや昇進に制限があります。

 婚姻関係に基づく在留資格だと、婚姻が破綻すると日本に在留できなくなりかねない。永住者といっても、24年に突然制度が変わった結果ですが、税金が払えないと在留資格が取り消されてしまう場合もあります。

 在留期間の更新をうっかり忘れると、たちまち不法滞在になってしまう。きっちり納税していても、交通事故を起こしたことで素行不良と判断されて在留資格が更新できなくなるかもしれない。生活のための銀行口座をつくるのも一苦労ですし、住まいを借りようとしても外国人だからと断られることもある。

 地域社会ではいつまで経っても「お客さん」で、自分の暮らしに直結する課題についての発言権もない。地域社会は受け入れているのに、外国人へのヘイト扇動を真に受けた人たちが他の地域からヘイトをまき散らかしにやって来ることもあります。排外的な政治情勢が強まると、どんな仕打ちをされるかわからない……。

 こうした不安や悩みは日本国籍を取得すれば解消できますが、法務大臣の裁量、現実には法務官僚の判断で決まるものなので、認められるかどうかは法務省、法務大臣の胸三寸です。弁護士などからの十分なサポートを得たうえで、幸運に賭けるしかありません。

在外邦人を悩ます国籍法11条1項

 同じような悩みには海外に住む在外邦人も直面しています。

 その悩みを一層深刻にしているのが、明治時代に作られて今も残っている国籍法11条1項「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」という規定です。

 ノーベル賞受賞者の南部陽一郎さん、中村修二さん、カズオイシグロさん、真鍋淑郎さんもこの規定のため日本国籍を失いました。たとえば南部さんが米国籍を取得したのは、ベトナム反戦運動に参加した学生を称賛する発言をしたため米国の治安組織に目をつけられ、外国人のままでは米国での研究生活が続けられなくなると危惧したためだったそうです(中嶋彰『早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか』講談社ブルーバックス)。

 異国で長年苦労し、在留国の国籍を取得できるところまで幸運にもたどり着いたのに、居住国での生活を安定させたくてそこの国籍を取得すると、日本国籍がなくなってしまう。そう知ったとき、ほとんどの日本国籍者は、「進むも地獄、とどまるも地獄」の二者択一を強いられる気持ちになるのではないでしょうか。

 日本人として世界的に活躍した人々であっても、日本国籍から排除してしまう。そして、日本人にも、日本国にも、不利益になるのに、追い出してしまう、こんな残酷な法律が許されるはずはない。そう思うのではないでしょうか。そして、追い出された人が、母国のことをどう思い、どう扱うのか。「母国」を家庭や学校に置き換えてみると、イメージしやすいかもしれません。

「明治」に縛られた日本の国籍法。その不条理をなくそうと声を上げた裁判の行方に、2025年は「期待が持てる」と仲弁護士は予感します。後半では、根拠となる、夫婦別姓、婚姻の自由を求める裁判を読み説きます。

 このごく自然で当たり前の悲…

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