夫の親族に囲まれ、誰ひとり「味方」がいない。そんな暮らしを10年。専業主婦の女性(62)はうつになった。人に会うことが怖くて外に出られない。家事も手に付かない。でも悪いのは全部自分だと思っていた。消えてしまいたかった。

 大学時代に出会った夫と、学生結婚をした。ほどなく長女が生まれ、そのまま専業主婦に。本当は「働く」という夢もあったけれど、あきらめた。我慢するのはいつものこと。転勤の多い夫について、全国を回った。

 次女も生まれ、4人家族に。自然に囲まれた土地での生活は楽しく、行く先々で友人にも恵まれた。

 子育てにも区切りがついた2013年、夫のふるさとにマイホームを建てた。50歳になるころだ。老後のすまいの心配もなくなり、のんびり過ごせる。そう思っていた。

うつになった体験を語る女性

 夫のふるさとは、下町風情がのこる地域だった。親戚も多く、自宅のすぐ近くに、夫のおじやおばなど4世帯が暮らしていた。

 夫はマイホームのかぎを五つ用意して、当然のように親族に配った。「え?」と思ったけれど、「夫はそうやって育ってきたんだな」。かぎを配るのは、何かのときのため。まさか、使われることはないのだろうと思っていた。

 ある日、外出から帰ると、自宅の家の電気がついていて、中では親族がくつろいでいた。

 親族同士、自宅の行き来は自由。いつ、誰が家にくるかわからなかった。

 まもなく、夫はまた単身赴任で遠方に赴いた。娘たちは自立して家を出ていた。「夫の親族たち」に囲まれながらの、不思議な共同生活がはじまった。

「どうして泥棒扱いされないといけないの?」

 「お風呂わいたよ」と言って…

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