福岡地裁の裁判員裁判(井野憲司裁判長)は18日、7歳長女の人工呼吸器を外したとして殺人罪に問われた母親(45)に懲役3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。事実関係に争いはなく、量刑が争点だった。
- 被告となった母親を絶望させた、ある日の出来事
判決は量刑理由について「張り詰めた緊張感のなか5年以上介護を続けた被告の肉体的精神的疲労は察するにあまりある」とした。
母親は1月5日午後2時45分ごろ、福岡市内の自宅で介護していた長女の人工呼吸器を外し窒息死させたとして起訴された。
公判の審理などによると、長女は生まれながらに「脊髄(せきずい)性筋萎縮症」と診断された「医療的ケア児」。2歳10カ月ごろまで入院していたが自宅介護となった。
母親は訪問看護師の助けを借りつつ、昼夜問わずのケアをしていた。たん吸引は30分~1時間に1回。体の向きをかえる体位交換は2~3時間に1回だった。
1日5回の胃ろうによる栄養注入は、手作りのものにこだわり、ハンバーグやグラタンをミキサーにかけていた。味や風味を伝えたいと綿棒で長女の舌に乗せることもしていたという。
四季や外の空気を感じてもらうことも大切にし、準備や移動を工夫して夫と毎週のように出かけてもいた。しかし、事件の2日前に夫から手助けに非協力的な言動をされたことをきっかけに「私と娘はいらない存在なんだ」と考え、無理心中を決意した。
検察側は母親の行動を「短絡的」と非難しつつ、手厚く介護してきたことなど酌むべき事情もあるとして殺人罪の法定刑の下限である懲役5年を求刑していた。
弁護側は、母親がこれまで努力を重ね命をつないできたことを考慮するよう求めたほか、証人尋問に立った夫が「私の発言で追い詰めたことが原因。妻とともに娘を弔い、償っていきたい」と述べ刑の執行猶予を求めていた。