「明治の森高尾国定公園」(東京都八王子市)と「明治の森箕面国定公園」(大阪府箕面市)を結ぶ、日本初の長距離自然歩道「東海自然歩道」が開通から50年を経て、再注目されている。
東海自然歩道は、急激な都市化やモータリゼーションが進んだ高度経済成長末期の1974年、「人間性の回復」や「歩くことの復権」をキーワードに、都市のスプロール化を食い止める目的で開通した。11都府県60市町村にまたがり、総延長は約1700キロ。現在、所々に迂回(うかい)路があり、整備が必要な区間もあるが、50周年を機に、ハイカーによる全線調査や、老朽化した道標の取り換えなどが進む。
開通から半世紀、味わい深い自然体験を得られる貴重なロングトレイルのひとつとして、歩く人が増え始めている。トレイルと訪れる人々の関係を見つめた。
「青い山」に潜る
4月下旬、昨年に56日間かけて全線を歩いた名古屋市在住のハイカー・山中二郎さん(42)と、神奈川の丹沢山地と並んで難所とされる鳳来寺山(愛知県新城市)などの奥三河の山々を歩いた。山中さんは宮大工の仕事の傍ら、ハンモックやタープなどを自作し、販売もする。2017年ごろから、作ったギアを背負い、東海自然歩道を歩き、新ルート開拓も構想し、自らの旅を「自分でつくる」ことにこだわっている。
全国を漂泊し自由律俳句を詠んだ、種田山頭火の「分け入つても分け入つても青い山」が好きだという山中さん。
百名山や誰もが知る景勝地がなくても、里で食料を補給し、野宿し、静かな山を歩き続けることで、「自然に身を置くことが普通に思える」感触があるという。
「トレイルが生活の場になる。自然環境や土地の人々へのモラルさえ持てば、幕営地を指定され、山小屋への到着時間に縛られる従来の登山より、自由な歩き旅を味わえる。気持ちに余裕がある分、季節の移ろいや地域の文化に敏感になれる」
「初めて聞いた鳴き声」
東海自然歩道の近畿セクショ…