政治Plus
権力の座に固執するのは政治家の性(さが)なのだろう。その座にいる期間が短く、やり残したことが多いと思っているならなおさらだ。政権運営に窮すれば「引き際」という言葉が頭をよぎらないはずはないが、弱気の虫が顔を出さないように自身が置かれた立場を直視しないのか、できないのか。4年前もそうだった。
2021年8月、首相就任からまもなく1年になろうとしていた菅義偉首相(自民党総裁)は、9月に控えていた総裁選での再選に黄色信号がともっていた。
地元の横浜市長選に、側近が衆院議員を辞めて出馬し、全面的な支援に乗り出した。だが結果は惨敗。任期満了が10月21日に迫っていた衆院議員からは「地元の選挙も勝てない菅さんでは、衆院選は戦えない」という空気が瞬く間に広まった。
それでも菅氏は再選に向けて、首相の大権である人事権と解散権を行使し、求心力を回復させようと画策する。
菅政権誕生の立役者ながら、安倍前政権時から5年にわたり幹事長を務め、絶大な力を持っていた二階俊博幹事長の交代方針を固め、さらに衆院解散・総選挙で総裁選の日程を後ろ倒しにするという奇策まで浮上した。
この頃、党の情勢調査が出回った。276議席の自民が最大で60超も減らすという惨憺(さんたん)たる結果。単独過半数(233)を割り、与党でも過半数を維持できるかも微妙な数字だった。議員生命を菅氏に委ねるわけにはいかないという心理が働き、首相交代を求める声は日増しに強まっていった。
とはいえ、政局が激しい時に永田町をかけめぐる情報は出どころも真贋(しんがん)もはっきりしないものがある。政敵を引きずりおろすための虚偽情報が流布されることも少なくないが、菅氏の答えは都合の悪い情報が入らない「官邸病」の最たるものだった。
「60議席を減らすと言っても、それは最も負けた場合だ。そこまで負けることはない。9月に任期を迎える役員の人事をやるのは当たり前で、なんで党内はそんなに反発しているのか」
公務の合間を縫った短い電話でのやりとりだっただけに、どこまで本心だったかはわからない。ただし、情報収集力を源泉に権勢を振るった官房長官時代の面影は消え、「総理になってから情報が入ってこなくなった」と語っていた菅氏の憂いが現実になっていると感じたのを覚えている。
時はコロナ禍。解散はそれを理由に否定したが、再選への意欲は衰えず、人事はあきらめなかった。現職が総裁選に出馬して負けたのは今年結党70年を迎える自民党史の中で福田赳夫氏だけ。出馬するなら勝つのが当たり前という重圧に、無策のままではいられなかったのだろう。
しかし、新役員が披露されることはなかった。本来であれば党役員人事を行うことを表明するはずだった臨時役員会で菅氏は「総裁選には出ずに、コロナ対策に専念したい」と退陣を表明した。振りかざした大権で人心が離れていることに気づき、トップとしての命脈が尽きるという皮肉な幕切れだった。
それから4年がたち、石破茂首相もいま剣が峰に立つ。
自民党の長い歴史のなかで衆…