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連載 混迷を歩く アメリカ大統領選2024:偽情報・誤情報編①

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混迷を歩く 偽情報・誤情報編

 一つのデマは、小さな街に大きな動揺をもたらしていた。

 「スプリングフィールドでは、移民がペットの犬や猫を食べている」。共和党のトランプ前大統領が9月、テレビ討論会で名指ししたことで、脚光を浴びた街がある。

 米中西部オハイオ州スプリングフィールドだ。

 9月下旬、この街を訪ねた。住民たちが集まる公聴会では、ハイチ人移民への「反対派」と「賛成派」に分かれて激論が交わされていた。

 白人女性がマイクに向かってまくしたてる。「ハイチ人は甘やかされている。私の税金で私よりいい暮らしをしている」「私たちは二流市民になってしまった。移民のせいで、この街は大混乱だ」――。

 傍聴席には星条旗を持ち、トランプ氏のTシャツを着た人もいる。「移民は占領者だ!」とヤジが飛び交い、武装した警察官によって退場させられる人も続出した。

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住民が集まった公聴会では、ハイチ人移民への対応について賛否両論が飛び交った=2024年9月24日、米オハイオ州スプリングフィールド、高野遼撮影

 白人女性とハイチ人移民の集団が、互いに「レイシスト(人種差別主義者)め!」「あんたたちこそ!」とののしり合う。その光景をみて、地元の白人男性(43)は「こんな騒動で注目なんてされたくなかった」と首を振った。

 もはや、移民が「ペットを食べた」かどうかは議論の中心ではなくなっていた。トランプ氏の発言を機に、街では「分断」を絵に描いたような光景が広がっていた。

ネット上で真偽不明の情報が拡散され、それが現実世界に大きな影響を及ぼす。その背景には、政治的な思惑も交差する――。「フェイク大国」となった米国の大統領選で、何が起きているのか。3回の連載を通じて報告する。

くすぶる地元の不満に「偽情報」が火を付けた

 なぜトランプ陣営は、この街…

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