川島隆太さんは「脳のどの部分がどんな働きをするか」の研究について、「いまは心理学者が主流になっています。私は遠くから応援しています」と語る=仙台市の東北大学、葛谷晋吾撮影

 「脳トレ」を生んだ川島隆太・東北大学教授(66)は当初、脳の地図づくりに取り組んだ。どの部分が、どんな働きをするか。この成果をもとに、脳の働きをよりよくする手法を編み出した。計算や音読といった単純作業だ。新聞を使うのもおすすめだという。やる気スイッチを押す儀式から語ってもらった。

朝の3杯、脳科学の観点で言うと…

 研究室には毎朝6時半、だれよりも早く来ます。まず家電会社バルミューダのコーヒーメーカーをセット。この機械は最後にお湯を少しつぎ足します。バリスタと同じ手順だとか。豆は山形県の狸森(むじなもり)焙煎(はいせん)所。苦味を中心に、奥深い余韻を引き出しています。どちらも数年前からお気に入りです。

 一気に3杯飲み、やる気を出して1日の仕事を乗り切ります。脳科学の観点で言えば、脳のデフォルト・モード・ネットワークという回路が切り替わって、リラックス状態から集中へと転換するのだと理解しています。

 大学に進むと、脳という物理的な存在に「心」がどんな形で収まっているのかを知りたくなりました。在籍した東北大学は放射線を使って血流を撮影する装置ポジトロンCTを導入します。「脳の機能も画像にできる」とされましたが、実は脳の働きを測る方法をだれも知らなかったようです。

 そのころスウェーデンの研究所にいたペル・ローランド教授が同じ装置を使って「思考を画像にした」と論文を書きます。手紙を送り、留学を受け入れてもらいました。「心」を構成する要素である記憶や感情が、脳のなかでどのように存在するのか。すべてを調べあげれば、「心」の形がぼんやり浮かぶだろう。そんな戦略です。

 1993年に帰国。研究を本格的に始めました。脳を細かく区切り、どこにどういう働きがあるのかを調べます。いまはMRI(磁気共鳴断層撮影)で、1ミリ単位でわかります。眉間(みけん)の奥には好き嫌いを決める場所が、右耳の上あたりには、やる気スイッチがある。そんな成果につながりました。

 教授に就いた2001年から、研究成果を社会に還元する活動に軸足を移します。脳の働きをよりよくする手法の確立です。実験をするなかで、情報の処理速度と記憶容量の向上が重要、前頭前野という部位が働くほど効果が表れやすい――この二つの原則を導きました。これを満たすのが計算や音読といった単純作業です。

認知症の予防にもつながりそう

 高齢者に試してもらうと、認…

共有
Exit mobile version