地元在住の議員がゼロになる瀬戸際に立った山あいの地域がある。そんな状況を目の当たりにし、市議選に挑戦したのは、「地縁も血縁もない」元銀行員の男性だった。
「40代でも若手って言われるんです」。1月下旬、山に囲まれる佐賀県唐津市七山地区(旧七山村)の中心部で、野田宗作さん(42)は言った。会社員なら中堅の年代だが、地区は高齢化率47.5%(2月1日時点)ほどに上るためだ。
移住の理由は「自然」、定住を決めたのは……
野田さんは広島県福山市出身で、福山誠之館高校ではラグビーで全国大会に出場した。大学卒業後、山口県内の銀行に就職し、数年おきに転勤の生活が続いた。
30代で3人の子が生まれ、自然豊かな環境で暮らしたいと思うように。休みの日は観光と移住先候補探しを兼ね、妻・早百理(さゆり)さん(42)の実家がある九州を中心にドライブに繰り出した。
移住には仕事が必要。調べると、自治体が地域活性化のために委嘱する「地域おこし協力隊」を知った。七山では2人募集しており、夫婦で一緒に仕事ができる。「ゼロから新しいことをするのもあり」と決意した。
2021年春、家族5人の七山での生活が始まった。野田夫妻に任されたのは、地域新聞づくり。妻がライター、野田さんが撮影を担い、学校や地域の行事を取材した。農家へのインタビュー企画や「七山弁講座」のコーナーも設けた。
外から来た自分たちにも優しくしてくれる人が多いと感じた。人の結びつきが強く、取材先も地元の人のつながりで増えていった。地域を盛り上げようと奮闘する同年代にも出会った。居心地が良く、3年の任期を終えても暮らし続けたいと思った。自然が魅力で移住したが、「定住を決めたのは人」と振り返る。
身近な人たちが被災し「恩返し」
任期最終年の23年7月10…