ニュウズが育てた「せとか」を手にする土居裕子さん=2024年2月、愛媛県伊方町、神谷毅撮影

 みかんの季節は、とっくに過ぎているとばかり思っていた。

 4月中旬のこと。確かにみかんはなかった。ただ、愛媛県伊方町に農業生産法人「株式会社ニュウズ」を訪れると、夏みかんに形が似た「サンフルーツ」が爽やかな「みかん色」をまとい、客を待っていた。

 「17種類のかんきつを作っています。こんなにたくさんの種類を作るところは、あまりないかも。『果実365日』と銘打っています」

 社長の土居裕子さん(39)は満面の笑みを浮かべながら、胸をはった。

 愛媛県伊方町の佐田岬半島。目の前の国道197号を西に向かって半島の尾根を車で走ると、かんきつの段々畑が、海沿いから天まで至る。

 100年以上続くみかん農家を、「まったく継ぐつもりがなかった」という土居さん。何が心境の変化をもたらしたのでしょうか。この地のみかんは「三つの太陽」を受けて育つといわれます。そんな地元と寄り添うようになった土居さんの心の動きを追います。

 土居さんは、海と山に囲まれたこの地のみかん農家に生まれた。生後まもなく、両親の農作業中には、かごに入れられてみかん山で過ごしたと聞いた。遊び場もみかん山だった。

 みかん栽培は曽祖父が始めた。100年以上続くみかん農家だ。

 祖父の門田裕昭さんは7人きょうだい。曽祖父の畑の半分は長男が継ぎ、末っ子の祖父は日当たりの悪い猫の額ほどの畑しかもらえなかった。

 祖父はふんばり、少しずつ栽…

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