北海道美唄市の小学校で実施されている「農業科」の授業が2年目に入った。高校や大学の専攻を思わせる授業名。「農業を学ぶのではなく、農業で学ぶ」。そんな理念の下、始まった取り組みは、手探りで一歩ずつ進められている。(長谷川潤)
「秋にしっかり収穫できるように、きょうから一生懸命育てていこう」
先生の言葉に子どもたちは元気にうなずいた。5月22日、美唄市立中央小の5年生が、学校近くの田んぼで、田植え作業に取り組んだ。
「腰が痛ーい」「転んじゃった。先生、助けて」
ぬかるんだ足元に悪戦苦闘しながら、子どもたちは、昔ながらの方法で、1本ずつ苗を植えていった。
約2.5アールの水田の一部に、横一列になって田植えをした子どもたち。あぜには、1人1本ずつ、名前を書いた木札を立てた。自分で植えた列は、収穫するまで自分が担当する。
「私のところだけ育たなかったら、どうしよう」
授業の冒頭、冷たい田んぼの水にはしゃいでいた子どもたちの表情に、少し責任感が宿ったように見えた。順調に育てば、秋には約120キロの収穫が期待される。実ったコメは収穫祭で振る舞う計画だ。
同市では、これまでも農業体験学習を実施してきた。2022年度に、授業で使う副読本を改訂した際、特別アドバイザーを務めたJT生命誌研究館の中村桂子名誉館長が携わってきた「農業科」の採用を決め、新たに「美唄市小学校農業科読本」を作った。
「農業科」の授業には、総合的な学習の時間を充てる。米作りに取り組む5年生には、年間30時間が確保されている。稲作を授業で取り上げる学校はあるが、多くは田植えと収穫の体験で終わる。美唄市の「農業科」では、田植え後も、生育状況の観察などを続け、半年以上かけてじっくりと作物と向き合う。
美唄市の「農業科」にはモデルがある。福島県喜多方市。ご当地ラーメンで有名な同市は、県内有数の米どころでもある。
2006年、政府から小学校農業教育特区の認定を受け、翌07年4月、市内三つの小学校で「農業科」の授業を始めた。
なぜ小学生が農業を学ぶのか。理由は授業で使う副読本に記されている。
本では冒頭、「3つのひみつ」を示す。①喜多方市には、人間の手が加えられているが、自然に近い形を残す「第二の自然」がある②毎日、何げなく食べている作物には、人間の長い歴史が隠されている③自然の森の土には誰も肥料をまかないのに、栄養分が補給されている。(要約)
農業には、これらのひみつが隠されています。自分でしっかりと作物の世話をして、自分で確かめながら、そのひみつを見つけ出していってください。
農業を学ぶのではなく、農業で学ぶ。同市が、こだわり、模索してきた「農業科」のかたちだ。
始まって17年。今では、市内すべての小学校に広がった同市の「農業科」の成果は、子どもたちの反応に見て取れる。
3年生の女子児童は、農業科で学んだ経験を「私のごちそう」という作文に書いた。
私の家は米農家です。私はずっとそれがいやでした。理由は、お出かけや旅行ができないからです。
でも、農業科の学習で米作り…