紀伊半島の山奥深く。奈良県十津川村にある12世帯18人の竹筒(たけとう)集落に昨年、コンクリート製の現代アートが完成した。
名前は「ONKAI」、音階になぞらえた。ドイツ人の作家ルーカス・キューネ氏が制作した「音の彫刻」だ。休耕して久しい棚田に、高さと直径が異なる10個の円柱が、輪を描くように立つ。高さは最大約5.4メートル。中に入ると環境音や人の声が、音の高さによって様々に反響する。
キューネ氏は過去に、エストニアやフィンランドなどで同様の作品を制作。「日本で音響彫刻を造りたい」と要望した同氏らを村と仲立ちしたのは、村で盆踊りの調査を45年間続ける中川真・大阪公立大特任教授(民族音楽学)。2016年、要望を受け候補地探しを始め、村と作品設置の合意書も交わした。だが、当初予定地の集落では反対意見が根強く、村内外から「迷惑施設」と批判された。
「二者択一で議論できない物」
19年、竹筒集落の玉置倬生(たくお)総代(79)は、予定地を引き受けた。「平均年齢が70歳を超える過疎の集落に、人が来るチャンスと捉えた」
20年、集落を拠点とする社…