室町時代中期、奈良・吉野の山中で南朝の再建を目指した「後南朝」の皇子ゆかりの兜(かぶと)が19日、500年以上も門外不出として守られ続けてきた奈良県川上村を離れ、奈良市・春日大社国宝殿の特別展「究極の国宝 大鎧(おおよろい)」で初めて「村外公開」された。展示は21日でいったん終了し、会期後半の8月28日~9月7日に再び展示される。
- 「門外不出」後南朝・悲劇の皇子の兜を公開へ 奈良・春日大社で
公開されたのは「縹糸威筋兜(はなだいとおどしすじかぶと)」(国重要文化財)。南朝最後の天皇・後亀山天皇の末裔(まつえい)とされ、1457年に北朝勢力によって18歳で討たれた「悲劇の皇子」、自天王(じてんのう)の遺品として伝わっている。
奈良県川上村では自天王遺愛の武具を大切に宝庫に納め、毎年2月5日に皇子をしのんで開かれる「御朝拝式(おちょうはいしき)」の時にだけ開帳してきた。今回、南朝ともゆかりの深い春日大社の「大鎧展」に国宝指定の甲冑類18件のうち9件が一堂に会するのに合わせ、初めて村外で公開することになった。
渡邉亜祐香学芸員は「年に1度開帳されるだけなので、保存状態が驚くほど良好。首を守る『しころ』をとじた縹色のひもの劣化も少なく、非常に貴重な存在です」と話す。
19日には多くの人が会場を訪れ、列を作って兜に見入っていた。
宮城県岩沼市の公務員、星豊明さん(68)は「とてもきれいに残っており、村の人たちが自天王の尊厳を大切に守ってきたことがよくわかった。見に来てよかった」と話した。
鹿児島県薩摩川内市で甲冑工房・丸武産業を営む田ノ上賢一社長は、「これだけ国宝が並ぶ展覧会はすばらしい。布、革、鉄の工芸が結集した日本の甲冑は世界でも他にない美術品だとあらためて実感した」と感激した様子だった。