授業をのぞくと、子どもたちは向き合って「魔法の言葉」を探していた。三重県や県教育委員会が今年度、いじめ予防プログラムの実証事業を始めた。主体的に行動できる力を育てる取り組みとは――。
実証授業を受けているのは、津市立安濃小学校3年生。委託された四日市市の人材育成会社「アットリンクス」の伊藤大輔社長が講師を務める。全12回のうち2回目の授業が21日にあった。
「今日は魔法の相づちを探そう」。伊藤さんが教室の子どもたち19人に呼びかけた。「話した人が『分かってもらえた』と思える『そ』から始まる言葉だよ」
「そうなんだ」「その通り」「それいいね」「それはいい考え」……。4班に分かれた子どもたちは思いついた言葉を順番に言い合った。語尾を変えただけでも、他班から聞こえた言葉でも、既出でもOKだ。最後に一人ひとりが発表し、伊藤さんはすべての言葉を黒板に書き連ねた。「それ、まじくそやばい」に子どもたちは大爆笑した。
「次は相手がうれしい気持ちになる魔法の言葉を探そう」と伊藤さんは新たな課題を出した。子どもたちは改めて班で向き合い、「すてき」「ありがとう」「いい感じ」などと言い合った。「アイラブユー」「つきあってください」と脱線気味になったが、伊藤さんは「それもいいね」と笑顔で応じた。
伊藤さんは「みんなで宝物の言葉を見つけたね。これからもどんどん使ってください」と授業を締めくくった。自分も相手も肯定できる言葉を使い、信頼関係を築くための取り組みだった。
1回目の授業は「お遊戯」で、自分を解放し表現力を高める練習をした。3回目は友だちのことをみんなに知ってもらう「他己紹介」。「人前で話すことができた」「みんなに分かってもらえた」とうれしさを感じる練習だ。4~7回で、自分と他人の性格の違いを認識する「心理分析プロファイリング」。8回目は、相手には見えない絵を説明する「背中合わせのお絵描き」に挑み、伝えることの難しさを知ってもらう。
9~12回目で本題に。カードなどを使いながら、いじめる子やいじめられる子、見ている子、助ける子の様々な思いを知り、「あなたは何ができますか」という問いに答えられるようにする。
朝日町立朝日小の4年生にも2学期から実施する。
県教委によれば、県内の公立小でのいじめの認知件数は22年度で3907件あった。児童1千人あたり44・7件で、18年度の2倍近い。このため自他の立場の違いが理解できるようになる3、4年生を対象に、これまでの道徳教育に加え、心理学など理論にもとづくプログラムに取り組むことにした。「かなり先進的な取り組み」(福永和伸・県教育長)という。
伊藤さんによれば、1~8回のプログラムは企業やスポーツチームでも活用している。自分の力を発揮するのにも、自分自身の気づきを大切に、自信を持ち、他人を思いやる気持ちを持つことが大切という。
県教委によれば、実証事業は両小の教員研修や保護者講演会でも実施し、学校や家庭が連携していじめ防止に取り組めるようにしたいという。成果を検証し、県内小中学校全体に取り組みを広める予定だ。
安濃小の田中英校長は「子どもたちは実践的な授業を通して、人は一人では生きていけないことを学んでほしい」と話している。(高田誠)