放送中のドラマ「魔物」(テレビ朝日系)のサブタイトルが斬新だ。「愛欲のキムチチゲ」「偽りのサムギョプサル」「ほじくってケランチム」……。興味を引く日本語と韓国料理名の組み合わせ。日韓合作のこのドラマには、どんな狙いが込められているのか。
制作はテレビ朝日と、韓国の大手映像制作スタジオSLL。これまでテレ朝は、同スタジオのヒット作「梨泰院クラス」「SKYキャッスル」を日本版にリメイクしてきた。昨年5月に協業協定を結んだ両社が、オリジナル作品として企画したのが本作だ。
弁護士・華陣あやめ(麻生久美子)の前に現れた、源凍也(いてや)(塩野瑛久)。DVから殺人まであらゆる疑惑がちらつく凍也だが、あやめはその魅力にあらがうことができない。不倫にセックス、暴力……。地上波ではなかなか見ない、欲望むき出しの物語が展開される。
SLLには、ドラマの企画の「種」が、常時120ほど用意されているという。その中から「日本向けに」と提案された企画だったが、テレ朝側は「日本ではやりにくかった企画」として、採用することにした。
人間の欲望やラブを描くチャンスが少なくなった
テレ朝側のエグゼクティブプロデューサーを務める内山聖子(さとこ)取締役は「日本のテレビドラマは閉塞(へいそく)感があるというか、一つのパターンに流れてしまっている」と、企画採用の背景にある危機感を語る。
「お仕事モノやサスペンスは確立されている一方で、人間の欲望やラブを描くチャンスが少なくなった」。そこで、世界を席巻するラブストーリーを作り出す、韓国ドラマの力を借りてみることにしたのだそうだ。
一方、SLLにもテレ朝と組むメリットはあるようだ。
SLL側のエグゼクティブプロデューサー、パク・ジュンソ制作代表は、テレ朝がリメイクした過去2作について、こう分析する。「(予算などの)制作環境の違いはどうしても表れるが、使った費用に比べてとても良い作品が作られている。能力のある制作陣であることが伝わってきた」
韓国のドラマ制作現場では、Netflixなどグローバルプラットホームが参入したことで、制作費の高騰が問題になっている。それに比べると、日本は限られた予算で一定の品質を担保できることが、強みとして映るというわけだ。パク氏は「我々も学んで、競争力を維持していかなければならない」と話す。
完成した作品は、実に不思議な味わい。二転三転、意表を突く展開。そして、唐突に登場する韓国料理。韓ドラらしさを感じつつも、あやめの内心をじっくり描く繊細さには、日本のテレビドラマらしさも感じる。
パク氏は「日本ドラマか韓国ドラマか分からないという感覚は、皆さんお持ちだと思います。成功したらそれが理由だし、失敗してもそれが理由でしょう」と笑う。「和食か韓食か分からないけど、おいしいね。そういった感覚が視聴者の皆さんに伝わるように、新しい食べ物を作っているつもりです」
ということは、あの独特なサブタイトルに、和食が入る回も来るのだろうか。
放送は毎週金曜午後11時1…