不朽の名作『時をかける少女』(1983年)などで「映像の魔術師」と呼ばれた映画作家・大林宣彦監督。日本の戦争史を描いた遺作までの後年、その作品世界を支えた右腕が、美術監督の竹内公一さん(77)です。映画美術の極意とは何か――。半世紀にわたる足跡をたどり、多くの名監督らとのエピソードも交えて話を聞きました。大林映画とも縁のあった東映東京撮影所を訪ね、美術の現場で撮った写真とともに紹介します。
美術監督の仕事は、まず脚本を読み、時代背景や撮影の動線を考えながらイメージ画を描く。予算も念頭に、メガホンをとる監督や技術部門と打ち合わせ、セットの図面を引く。装飾部門とも想定を共有し、劇的空間を作り上げてゆく。総合芸術たる映画の、まさに舞台裏をつかさどる。
観客は物語の展開や俳優の演技に注目し、映像や舞台がどう作られたのか気に留めないかもしれない。でも、それでいい。それでこそ成功なのだ、と言う。
「この映画、美術は良かったね、じゃダメ。この映画、おもしろかったね、と思われなければ。すべては作品のために精魂を込め、力を尽くす仕事なのです」
竹内さんは『ウエスト・サイド物語』『男と女』など洋画好きの映画青年だった。1970年、映像・舞台美術の制作会社「東宝舞台」に入社し基礎を学ぶ。75年に退社後、新藤兼人、今村昌平、篠田正浩ら名監督の作品に美術スタッフとして携わった。
映画美術の巨匠・木村威夫(たけお)(1918~2010)に師事。『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順監督)、『父と暮せば』(黒木和雄監督)など数々の名作の世界観を創造した木村の、鮮やかで大胆な色彩感覚、現実と幻想の境界を飛び越える自由自在な映像表現にならい、受け継ぐ。
その教えは「台本通りに考え…