(10日、第106回全国高校野球選手権大会1回戦 中京大中京―宮崎商)
あの日のことは鮮明に覚えている。だけど多くを語ることができない。
2016年4月の熊本地震。276人が犠牲になった。中京大中京(愛知)の仲健太郎選手(3年)は、故郷の熊本県南阿蘇村で被災した。
当時、小学4年生。ショックは大きかった。母の早苗さん(41)によると、山あいにある自宅は、家の横まで土砂が崩れてきたという。隣接する家の住人は亡くなった。集落は特に被害が大きい地区にあった。
一家は、岡山県にある早苗さんの実家に身を寄せた。地元少年野球チームに入っていた仲選手はバットを持って。
1週間ほど経つと、帰りたい、と子どもたちが言った。「健太郎が特に『絶対に帰りたい』」と早苗さん。家族で話し合い、村への帰還を目標に据えた。父は生活を立て直すために一足先に戻り、早苗さんは熊本と岡山を往復し、仮設住宅の申請などに追われた。
小4の1学期、「あの子」と岡山で出会った
岡山市内の小学校に通ったが、仲選手は不安を抱えていた。内気な性格に加えて、阿蘇弁が通じない。
「みんなに通じなんだけど、どうしたらいっとぅ」。そう漏らしたのを早苗さんは覚えている。
5月、仲選手に岡山の居場所が出来た。入ったソフトボールチームで気にかけてくれる子がいた。
それが、岡山学芸館のエース沖田幸大選手(3年)だった。
「熊本の友達に早く会いたそ…