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矢口明子市長(左)に再調査委員会の調査報告書を答申する栗山博史委員長=2025年3月7日、酒田市役所、清水康志撮影

 山形県酒田市立中学校の当時1年の女子生徒が2021年2月、校舎から飛び降りて自殺した問題で、第三者による再調査委員会(委員長=栗山博史弁護士)が7日、矢口明子市長に調査報告書を答申し、遺族に報告した。女子生徒へのいじめを認定する一方、自殺との間には「因果関係を認めるに足りない」と判断した。

 この問題では、市教育委員会が21年9月に第三者委員会「市いじめ問題対応委員会」を設置。22年4月に遺族に渡した調査報告書では、いじめと自殺に「一定程度の因果関係は認められる」とした。だが「いじめが自死の主要な原因であるとまでは考えない」としたため、遺族の納得は得られなかった。

 丸山至市長(当時)は22年6月、同委員会から報告書と遺族の意見書を受け取ったが、「遺族は内容に納得せず、再調査を求めていた」とし、十分な調査が尽くされていないと判断。同年10月に遺族の思いを踏まえ、「市いじめ重大事態再調査委員会」を設置した。

 再調査委は、いじめの事実確認や自殺といじめの因果関係、再発防止策などを調査。中学校による調査と生徒・保護者アンケート、前調査委の調査結果を踏まえ、関係する生徒や教職員、遺族らに原則対面で聞き取り調査をし、計42回の委員会で調査を続けてきた。

 報告書では、女子生徒のげた箱に「死ね、キモイ」と書かれた紙を複数回入れる▽LINE上で女子生徒の髪形を揶揄(やゆ)する表現を書き込む▽女子生徒を無視したりにらんだりする、などの行為がいじめに当たると認定した。

 一方、女子生徒が抱えていた自尊感情の低さや孤独感の程度は相当に大きいのに比べ、いじめを含む中学での複数の体験による影響の程度は大きくないと指摘。「いじめと自殺との因果関係を認めるに足りない」と結論づけた。

 学校側の対応については、女子生徒が読書感想文で「今すぐにでも死にたい」と書いたり、いじめについて教員に伝えたりしたのに、十分対応しなかったと指摘。学校全体で情報を共有し、女子生徒に丁寧に対応していれば、心理的・医療的ケアが実施された可能性があり、自殺に至らなかった可能性も否定できないとし、「学校・教員が生徒の発するSOSをことごとく見落とし、何らの対応もしなかったことは極めて問題であった」と厳しく批判した。

 この日、市教委は「指摘内容を真摯(しんし)に受け止め、再発防止に全力で取り組む」などとするコメントを出した。

 再発防止策として、再調査委は、子どものSOSに気付く力を養う研修実施▽自殺予防のための組織的対応▽いじめ対策の常設組織の設置なども提言。栗山委員長は、女子生徒は死にたいなどのサインを何度も出していたと指摘。「子どもがどう悩んでいるか把握できる、SOSをキャッチできる体制をつくってほしい」と述べた。

 遺族はこの日に出したコメントで「(自殺との因果関係や一部のいじめが認められず)この上ない辛(つら)い調査結果」とした上で、関係者への感謝を示し、我が子への変わらぬ愛情を吐露した。

 答申を受けた矢口市長は「報告書をしっかりと精査し、今後必要な措置を行う。再発防止を図るべく、教育委員会や学校、関係機関、市長部局の関係部署が連携しながら市を挙げて対策に取り組む」と話した。調査報告書から個人情報などを削除した公表版(66ページ)は10日に市のホームページで公開する予定。

酒田市の中学生いじめ自殺問題をめぐる経緯

2021年2月 市立中学校1年の女子生徒が学校で転落死、自殺と判断

   9月 市教育委員会が「市いじめ問題対応委員会」設置

 22年4月 調査報告書(非公開)が市教委から遺族へ渡される

   6月 調査報告書と遺族の意見書(非公開)が市長へ渡される

   10月 市長が「市いじめ重大事態再調査委員会」設置

 23年9月 報道各社の情報公開請求に対し、前調査委の調査報告書を一部黒塗りで開示

 25年3月 再調査委が市長に調査報告書を答申、市が公表

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