東京地検、最高検などが入る中央合同庁舎=東京・霞が関

 「大川原化工機」(横浜市)をめぐる冤罪(えんざい)事件について、最高検は7日、捜査や起訴、保釈手続きを検証した結果を公表した。

 検証報告書は、A4サイズで56ページ。補充捜査や起訴、保釈手続きの問題点や反省点を並べたが、関係した検事らの処分は見送った。山元裕史・最高検次長検事は、その理由を「決裁を経た判断であり、個々に制裁を与えるべきものではない」と述べた。

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 報告書が「深く反省しなければ」と明言したのは保釈請求への対応だ。

 大川原化工機の顧問だった相嶋静夫さん(2021年2月に72歳で死亡)は勾留中に進行胃がんの診断を受けたが、その後も、公判担当の検事は保釈請求に反対し続けた。

 この点について報告書は「生命に関わる重篤な病状だと容易に把握できた」とし、拘置所に治療状況を確認する必要があったと指摘。そのうえで「あえて反対の意見を述べないなど柔軟な対応をとることが相当であった」と記した。

 捜査や起訴段階では、起訴した検事や決裁した上司らについて、警察の捜査への確認が不足していたと指摘した。噴霧乾燥機が輸出規制の対象にあたるとした警視庁の独自解釈にも「検察官が自ら経産省に確認するなどの捜査を行うことがより適切であった」と述べた。

 報告書は、再発防止策として、保釈請求への対応時に、勾留中の被告人などの病状を確認する連絡体制を強化。また、東京地検特捜部が起訴した事件の公判を担う特別公判部に、公安部の事件も起訴前にチェックする「総括審査」の担当として、「公安公判担当検察官」を配置するとした。

 東京地検の市川宏・次席検事は「総括審査制度は特捜部の事件で運用されているものだが、困難な法令解釈や高い専門性が求められる公安事件でも適用していきたい」と話した。

 一方、保釈請求について、検察官による反対意見を受けて許可しなかったのは裁判所だ。ただ、その裁判所当局に、今回の事件をめぐり保釈判断の是非を検証する動きはない。

 起訴内容を否認すると保釈が認められず、身体拘束が長引く状況は「人質司法」と批判される。身体の自由を人質にとられて罪を認めるよう迫られる、との意味だ。

 保釈されないまま亡くなった相嶋さんの遺族は「人質司法に加担した裁判所も検証をするべきだ」と求めてきた。

 裁判所はこれまで、個別の事件で裁判官が下した判断について公式に検証したことはない。裁判官の判断の是非を検証すれば、憲法が定める「裁判官の独立」を脅かしかねない、との理由だ。

 ただ、裁判官の間にも保釈の実務をめぐる課題を指摘する声はあり、運用面での模索が続く。

 東京地裁では24年から、争点が複雑な一部の事件を対象に、保釈の判断をする裁判官を原則として固定する運用を始めた。従来の当番制を改めることで、事件を理解した裁判官が効率的に適正な判断を下せるようにする、との狙いだ。

 あるベテラン裁判官は「裁判官同士の議論を重ねて、保釈判断の質を上げていくことが裁判官の責務だ」と話した。

     ◇

 指宿信・成城大教授(刑事訴訟法)の話 大川原化工機側が捜査に全面的に協力していた今回のケースで、本当に勾留の必要があったのか。検察の検証は踏み込んでいない。医療関係者など、第三者の視点を踏まえた検証に加え、被告人側から健康上の問題に関して訴えがあった他の事件の分析も必要だ。また、裁判所は検察官の意見にかかわらず治療の必要があれば保釈を認めるべき立場で、責任を問われないのはおかしい。

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