朝日歌壇

短歌時評 小島なお

 歌壇俳壇面で月1回掲載している、歌人の小島なおさんによる「短歌時評」。今回は加古陽さん、山中千瀬さんの歌集を取り上げ、短歌という詩型が持つセルフケアとしての効能について考えます。

 小野茂樹は歌集『羊雲離散』のおぼえがきで、短歌の詩型のことを「整流器」であると書いた。「日常会話の一節ですら完結しがたい日々に、何ごとかを言いおえる世界がどこかにあっていい」と。小野の思いは、情報と言葉の止(や)まない現代を生きる私たちの精神にあらためて共振するように感じる。

 風のように渡ろう眠るしまうまの毛の下はまだ燃えているから

 加古陽『夜明けのニュースデスク』は、新聞記者としての取材体験を通じて世界の様相と、歴史を形作ってきた時間の局面を眼差(まなざ)す歌集。長崎の原爆落下中心地を訪れた作で、「しまうま」はゼブラゾーン(横断歩道)を示唆する。歳月の舗装路をめくればすぐ下に、被爆地として苦しむ肉体の熱が息づいているのだと。

 暴力から生まれた暴力太郎か…

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