野村良太の山あり谷あり大志あり:10
2022年に前人未到の北海道分水嶺(ぶんすいれい)積雪期単独縦断を達成し、28歳で植村直己冒険賞を受賞した道内の山岳ガイド野村良太さんのコラム(紙面は北海道支社版掲載)です。
ミキオさんが振り返ってこちらに目配せをしている。そこで待っていろという合図だ。僕からはミキオさんしか見えていない。どれくらいの時間が経っただろうか。ライフルの銃声が白老町周辺の山中にこだました。急いで斜面を下ると、数十メートル先で1頭の痩せた雌鹿が雪と土の境目に横たわり、その命を終えようとしていた。
ミキオさんこと黒田未来雄さんのエゾシカ猟に同行することが決まってから、ずっとこの瞬間を心待ちにしていた。
ミキオさんの狩猟スタイルは、貴重な命をありがたくいただく、ということに尽きる。北米ユーコンの先住民に学んだ単独忍び猟にこだわり、食べきれる量以上の鹿は獲(と)らない。獲った鹿はその場で血を抜き、内臓を取り出す。木につるして解体し、毛皮や肉のほとんどを担いで帰る。詳しくはご本人の著書『獲る 食べる 生きる』(小学館)に譲るとして、僕は人生初めての狩猟を、ミキオさんに同行したいと思った。
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初日は獲物が見つからなかっ…