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昨夏、演舞場を見渡せる位置に設けられたプレミアム桟敷席。閉幕後に建築基準法違反が発覚した=2023年8月12日、徳島市藍場町1丁目、代表撮影
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 全国から観光客が訪れる徳島市の夏の風物詩、阿波踊りの「形」が、再び変わりそうだ。紆余(うよ)曲折を経て現在の運営体制を築いた内藤佐和子市長(40)が4月7日投開票の市長選に立候補せず、一騎打ちとなった2氏が見直しを訴えているためだ。度重なる運営方法の転換に、踊り連の関係者らに戸惑いが広がっている。

  • 「最年少女性市長」が立候補断念した市長選 男性2人の一騎打ちか

 市長選に立候補しているのは、前自民党衆院議員で新顔の福山守氏(71)と元四国放送アナウンサーで前職の遠藤彰良氏(68)。「全国最年少の女性市長」として4年前に当選した内藤氏は、体調への不安などを理由に告示約2週間前に立候補断念を表明した。

 400年の歴史があるとされる阿波踊りは、1970年代以降、徳島新聞社と市観光協会の二人三脚で運営され、知名度を上げた。ところが2017年に協会の4億円超の累積赤字が発覚し、この枠組みが破綻(はたん)。市の関わりが大きくなった。

 赤字を解消し、持続可能な運営をどう構築するか。興行中心か伝統重視か。時の市政によって運営方法が模索されることになった。市長選の結果が、阿波踊りの形に結びつくことになったゆえんだ。

 16~20年に徳島市長を務めた遠藤氏のもと、当時の実行委員会は19年、収支改善と情報発信の強化などをねらって興行大手キョードー東京を中心とする民間事業体への運営委託へかじを切った。

 その翌年、遠藤氏を破って内藤氏が当選すると、内藤氏がトップの実行委はこの民間委託を解除。22年になって大学連など若い世代を取り込んだ官民連携の「阿波おどり未来へつなぐ実行委員会」が立ち上がった。

 新実行委は演舞場への命名権という形で民間活力も取り込み、22、23年と黒字決算を達成。訪日外国人の誘客を狙って1席20万円のプレミアム桟敷席を導入したことも注目された。一方で違法建築が発覚して批判が殺到した。台風が近づくなか、中止の判断が遅れたことが議論になった。

立候補の2氏は見直し主張

 経済効果が大きく、市の浮沈にもかかわる阿波踊りをどうすべきか。告示前の3月9日に開かれた市長選立候補予定者の公開討論会でも話題になった。

 福山氏は「イベント化された今の阿波踊りより、市民、県民が本当に喜ぶ阿波踊りにしたい」と発言した。地元の人が気軽に楽しめる料金体系にする方針で、破産した観光協会の復活も主張している。

 一方、遠藤氏は「運営委託したキョードー東京は『リオのカーニバルのようになる』と言ってくれた。また世界へ発信していければ」と主張。再選の暁には民間連携方式に戻す考えだ。

 どちらが当選しても見直しは必至の状況に、この夏の事業計画を練り上げているさなかの実行委メンバーは戸惑う。

 告示直前にあった会議では、市議会代表の委員が「2氏とも(実行委の)運営方針に肯定的ではない。この場で決めたことがその通りになるか、不透明だ」と発言。

 経済団体の委員も「実行委の解散も考えられる」と先行きを危惧した。実行委は選挙後速やかに新市長の意向を確認する方針だ。

「踊り手の減少」の問題も

 ある踊り連の代表は取材に「踊り手が政治に巻き込まれるのは、どう考えてもおかしい。全国の有名な祭りでは運営主体が行政から完全に独立しているところもあるのに」と打ち明ける。

 一方、30年にわたり阿波踊りを取材してきた徳島市の出版社「猿楽社」代表の南和秀さん(56)は、民間委託か協会の復活かといった「形」より、対応が急がれるのは踊り手の減少だとする。

 「阿波踊りは本来、平和的で、老若男女、外国人も楽しめる良い文化なのに、最近はネガティブなラベルが貼り付けられ、スキャンダルばかり注目され、嫌気が差して離れる人も少なくない」と指摘。

 「若い人のアイデアや行動力とベテランの知見を合わせながら、阿波踊りは良くなった、変わったというイメージの回復に早期に取り組まなければならない」と語る。(東孝司)

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