悪質な交通事故に適用される危険運転致死傷罪。要件があいまいとの批判があるなか、鈴木馨祐法相が10日午後、見直しについて法制審議会(法相の諮問機関)に諮問した。法改正に向け、議論に欠かせない視点とは。
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社会が納得できる法律に 事故遺族・波多野暁生さん
娘失った信号無視の事故 検察は「過失」?
2020年3月14日夜、東京都葛飾区の自宅近くの国道で、娘の耀子(ようこ)(当時11)と横断歩道を渡っていた時です。左から軽ワンボックスカーが突っ込んできました。私は左足を骨折。私の左側にいた耀子の命は奪われました。ほぼ即死です。信号無視の車でした。
運転手は直後の実況見分で、横断歩道の停止線の手前約28メートルで赤信号に気づいた、と話しました。ですが、検察官は「危険運転致死傷罪では公判維持が難しい」と言うのです。赤信号とわかっていて横断歩道に突っ込み、人を死なせた。それなのになぜ――。納得できず、交通事故に詳しい弁護士に協力を依頼し、自分でも判例を調べるなど、できる限りのことをして検察に何度も申し入れました。
事故から1年後、検察は危険運転罪で起訴。裁判でも、危険運転罪の要件である赤信号の「殊更に無視」が認められ、懲役6年6カ月の判決が下されました。
「なんで今なの?」孫に会う10日前 命奪った飲酒事故は「過失」か
2024年3月、富山市で車にはねられ、ミュージシャンの女性が亡くなりました。運転手は2軒はしごし、一方通行を逆送したとみられています。警察の判断は……?
- 音楽に情熱注いだ母 曲がったことが嫌いな彼女 飲酒運転に奪われた
裁判は終わりましたが、私は遺族として警察官らへの講演を続けています。私たちの事故の後も、制限速度を大幅に超えて死亡事故を起こした運転手が過失運転罪で起訴されるなど、納得しがたい事例がやまないからです。
「きちんと捜査して、罪を問うてほしい」。あの日、娘を失い、私が生き残った。戻ってこない娘の死が軽んじられているのではないか、そんなやり場のない怒りを活動にぶつけているのかもしれません。
数値基準の新設は「前向きな一歩」
危険運転罪の要件は、飲酒な…