めったに姿が見られないことから「幻の魚」と呼ばれるサツキマスを30年にわたり追い求めている人がいる。その間にウッドルアーの職人にまでなった徳島県美馬市の原村充さん(66)。魚を魅了する動きや頑丈さを突き詰めたルアーは「よく釣れる」と人気だ。その秘密を探るべく、工房を訪ねた。
- 龍馬も泳いだ川にアユの群れ 「最後の職人」が作る毛針で狙ってみた
高知県の源流から徳島県を横断し、紀伊水道へ注ぐ全長194キロの吉野川。その中流域にかつて、特産の藍の流通で栄えた美馬市脇町がある。「うだつの町並み」と呼ばれる古い商家が並ぶ通りのほど近くに、原村さんの工房がある。
木造平屋建ての自宅離れを改造した工房に、開きにしたアジの半身のような木片が並べられていた。木を削りだしたルアーのパーツだ。部屋には木の香りが漂う。
片隅で机に向かう原村さんは、小魚の形に組み立てた「ミノー」と呼ばれるルアーに、黙々と紙やすりをかけていた。
長さ5~8センチほどの紡錘(ぼうすい)形に組んだ木にアルミ箔(はく)を巻き、塗料でリアルな小魚の目や模様などを描く。さらに、ウレタン樹脂に漬け込んで乾かす工程を繰り返す。川で投げた時に、石にぶつかって壊れないよう強度を高めるためだ。
ルアーの口のあたりには「リップ」と呼ばれる半透明の薄い板が取りつけてある。まるで「あかんべー」と舌を出しているかのよう。流れのある川でルアーを引くと、リップの抵抗でルアーは胴体をゆらゆらと左右に半回転させながら水中に潜っていく。
「ルアーが回転するたびに側面のアルミ箔がキラキラ光って、魚を引き寄せるんです」と原村さん。
「アドレナリンが出まくった」
原村さんとサツキマスの出会…