【ニュートンから】人体と機械は融合できるか(3)

人体と機械の融合

 この連載では失われた身体機能を補う最先端のテクノロジーを紹介してきた。近年では,補うだけにとどまらず,ロボットやAIなどを使って人間の身体機能を拡張する「人間拡張工学」の発展もいちじるしい。たとえば,「ダヴィンチ」に代表される内視鏡手術支援ロボットもその一つといえる。執刀医は,ロボットの腕の一つに装着されたカメラが撮影した3D映像を見ながら,何本もの腕を操作して高度な手術を行う。これらの手術支援ロボットの技術を応用すれば,はなれた場所にいる医師が手術を行うことも可能だ。

 中国の解放軍総医院第三医学センターの張旭教授は2024年に遠隔手術ロボットを使い,直線距離で約8100キロメートルはなれた場所にいる患者の前立腺がんの遠隔根治手術に成功した。張教授はローマでロボットを操作し,北京にいる手術ロボットが手術を行った。双方向の通信距離は2万キロメートルをこえる。5G(第5世代通信)などの高速大容量通信技術の進化によって,複雑な操作であっても距離の制約なしにできるようになってきている。

 東京大学先端科学技術センターの稲見昌彦教授は人間拡張工学の意義について次のように説明する。「私は子供のころから運動が苦手で,自分の体に不自由さを感じていました。自分の身体から解放され,より自由になりたいと願っていました。人間拡張工学によって,人々は自分の思うがままにもっと自由にやりたいことができるようになると考えています」。

機械の指や腕を装着する

 稲見教授らは,さまざまな大学や企業などの研究者とともに「自在化身体プロジェクト」を推進している。自在化身体プロジェクトでは,人間がロボットやAIなどと一体となり,人の意思にもとづき自在に行動することを支援する「自在化技術」の開発を行っている。これまでに自在化身体プロジェクトでは,小指の外側に取りつける「第6の指」(電気通信大学の宮脇陽一教授やフランス,CNRSのガネッシュ・ゴウリシャンカー博士との共同研究)を開発した。両脇の少し下あたりに取りつけたロボットアームを3本目,4本目の腕として自在に動かす装置「MetaLimbs」(メタリム:東京大学と慶應義塾大学の共同開発),早稲田大学の岩田浩康教授が開発した背中などに取りつけられる「第3の腕」なども発表している。

電気通信大学の宮脇陽一教授らは機械でつくられた「第6の指」を開発した。腕に装着したセンサーで腕の筋肉の電気信号を検出し,第6の指を動かす。手首付近に力をいれるようにすると,通常の指の曲げのばしとはことなるパターンの信号が生じ,小指の外側にある第6の指が曲がる。画像提供:電気通信大学

 人間はこのような追加の指や…

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