連載「石に魅せられて」
技術者は自らつくる半導体を「石」と呼ぶ。半導体の材料となるシリコンが珪石からつくられるためかもしれないが、実際のところはわからない。石に魅せられた日本の技術者たちは、かつて築き上げた半導体王国の絶頂と転落に何を見ていたのか。石にかけた、彼らの生き様を追う。(敬称略)
2008年11月、東芝の子会社で役員をしていた宮本順一(74)に、とある企業の社員を名乗る男性から一本の電話がかかってきた。
「外資系の会社が、宮本さんに興味を持っています」
宮本は、東芝が1987年に世界で初めて開発した「NAND型フラッシュメモリー」に携わってきた技術者だ。
電話口で男性は、自分は本当はヘッドハンターだ、と明かした。社内で話すのはまずいと思い、メールを送ってもらうよう頼んで電話を切った。退職後の職を探していたタイミングだったので、ひとまず会うことにした。
後日、待ち合わせの場所に行くと、やってきたのは長年のライバル、韓国サムスン電子の社員だった。
サムスンとは、90年代に共…