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テープを飛ばす出演者たち=2025年3月26日午後7時14分、富山市、井手さゆり撮影

 郷土芸能の魅力を伝えて地域を盛り上げるイベント「わっかフェス」(三菱商事・朝日新聞社主催、北陸朝日放送特別協力)が3月26日、富山市のオーバード・ホールで開かれた。フォークデュオ「ゆず」の北川悠仁さんと岩沢厚治さんも出演。北陸の郷土芸能を担う4団体や学生サークルとともに、観客2千人と笑顔の「輪」を作り上げた。

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 わっかフェスは2023年にスタート。2度の秋田開催を経て、3回目の今回は富山で初開催。ゆずは前回に続いて2度目の出演となった。

 地元富山から南砺平高校郷土芸能部、県民謡越中八尾おわら保存会、新湊・二の丸町獅子方若連中、石川県輪島市から御陣乗(ごじんじょ)太鼓が出演。横浜国立大の「みんけん」(民謡研究会合唱団)も参加した。

 ゆずの2人は、2月の事前交流会で団体のパフォーマンスを見学し、コラボステージの演出を練ってきた。

前半に郷土芸能、後半にゆずが登場

 フェスは2時間半。前半で各団体が順にパフォーマンスを披露。後半のゆずのライブでは団体のメンバーがまじって会場を盛り上げた。

 後半は、ゆずのライブで恒例の総立ちでのラジオ体操で始まった。曲間で北川さんの動きに合わせて「YUZU」「TOYAMA」と全身を使った人文字で表現した。

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「TO.YA.MA」のかけ声に合わせ、観客と一緒に手を上げたり足を広げたりして全身でアルファベットを表現するゆずと出演者たち=2025年3月26日午後6時50分、富山市、井手さゆり撮影

 配られた特製のタンバリンを使って会場全員で踊るシーンも。笠を脱ぎ、音楽にあわせてノリノリで踊ったおわらのメンバーは「いつもは静かに優雅にっていうのを心がけているので、すごく楽しかったです」と笑顔を見せた。

 「夏色」では、祝い事のあった家で餅をまくのをモチーフに、新湊・二の丸町獅子方若連中の子どもたちが客席へゆず味の餅を投げた。フィナーレでは「栄光の架橋」を会場全体で歌った。

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会場に向かってもちを投げるゆずと子どもたち=2025年3月26日午後7時19分、富山市、井手さゆり撮影

 終演後、北川さんと岩沢さんは「わっかフェスは長く続いてほしい。郷土芸能がもっと知られ、100年後、200年後に現存する世界であってほしい」と話した。

子どもの泣き声で「テンション上がった」

 「うえええん」。子どもの泣き声が響いたのは、4番目に登場した御陣乗太鼓の演奏が始まった直後。夜叉(やしゃ)を模したお面姿の演者が「うおおお」と叫んだ姿に驚いたようで、会場には納得の笑いが広がった。

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わっかフェスに登場した御陣乗太鼓=2025年3月26日午後6時1分、富山市、井手さゆり撮影

 「あれで私たちのテンションは上がりました」と終演後に話したのは、保存会事務局長の槌谷博之さん(58)。能登に攻め込んできた上杉謙信の軍勢を、鬼や亡霊になりきって追い払ったのが起源とされる御陣乗太鼓。「怖がられる」のは本望だ。

 長年の練習の成果と、勘を頼りに演奏する。幼いころはアイスや絵の具を「えさ」にぶら下げられ、練習に参加した。お面で視界はほぼない。ミスすれば、人の手をたたいて血だらけになる。

 輪島市名舟町に生まれた男だけがたたくものとされてきた。人口200人弱。担い手は足りない。そこに襲った地震と豪雨。次世代を担う小中高生約10人は金沢に移った。

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わっかフェスに登場した御陣乗太鼓=2025年3月26日午後6時2分、富山市、井手さゆり撮影

 残ったメンバーも仮設住宅暮らしが続く。地震後、輪島では一度も演奏していない。100年以上使い続けるお面の髪は定期的に付け替えてきたが、その材料の海藻が海底の隆起で採れなくなった。それでも、「くよくよしんと、前向いてたたき続ける」と、たたき手の代表である選手会長の大宮正勝さん(50)。

 わっかフェスに出演したのは、地元出身者に「思い出して」ほしいから。自分たちの姿を見て、地元に戻ろうと思う人が現れたらうれしい。「名舟の人間にたたき続けてほしい」。演奏後、会場から大きく長い拍手が送られた。

【富山県民謡越中八尾おわら保存会】

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わっかフェスで女踊りを披露する県民謡越中八尾おわら保存会=2025年3月26日午後5時33分、富山市、井手さゆり撮影

 富山県八尾町(当時)で1929年に発足。三味線や胡弓(こきゅう)の音にあわせ、踊り手が町を練り踊る毎年9月の「おわら風の盆」は、約20万人が訪れる県内有数の行事として知られる。

 今回は若手18人が参加。横浜国立大のサークル「みんけん」の学生らに事前に踊りを教え、ともにステージに立った。清水優作さん(26)と山田千紗都さん(28)は「本当にがんばってくれた。こちらも刺激を受けた」と学生らを褒めたたえた。

【横浜国立大・みんけん(民謡研究会合唱団)】

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わっかフェスに登場した県民謡越中八尾おわら保存会と横浜国立大の「みんけん(民謡研究会合唱団)」=2025年3月26日午後5時38分、富山市、井手さゆり撮影

 ゆずの地元・横浜から12人で参加した。かつてサークルで引き継がれていたおわらの踊りは、コロナ禍で絶えた。取り戻そうと3カ月以上練習を続け、保存会とともに踊った。

 代表の藤原彩乃さんはステージ上のインタビューで、保存会の城岸司さん(61)から「ぜひ富山でおわらの継承を」と呼びかけられた。「静かで美しく、歌と楽器に合わせて踊るのが楽しかった」と、おわらは今後も続けていきたいと思っている。

【南砺平高校・郷土芸能部】

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わっかフェスで民謡を披露する南砺平高校・郷土芸能部=2025年3月26日午後5時14分、富山市、井手さゆり撮影

 合掌造りの集落がある富山県南砺市の五箇山地域にある。全校生徒約60人の半数ほどが部員。多くは寮生活を送る。全国高校総合文化祭では過去に最優秀賞多数の強豪校。舞台に出入りする際は必ず一礼する。

 日本最古の民謡といわれる「こきりこ」と、平家の落人伝説を伝える「麦屋節」を披露した。河口湧飛(わくと)部長と織田芽依香副部長は、自分たちのことを「ゆずさんのおかげで知ってもらえた」と顔をほころばせた。

【新湊・二の丸町獅子方若連中】

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わっかフェスに登場した新湊・二の丸町獅子方若連中=2025年3月26日午後5時51分、富山市、井手さゆり撮影

 富山県射水市で毎年5月、胴長の「百足(むかで)獅子」が家々を回る。獅子と対峙(たいじ)するキリコ役を3~4歳の子どもたち、かけ声を高校生らが担うなど若者が中心。獅子舞連絡協議会の会長五十嵐友輔さん(26)は「越中祭青年会」を立ち上げて各地と協力し、祭りの存続を目指している。

 五十嵐さんと、同級生で二の丸町青年団の団長久々湊(くぐみなと)諒さん(26)は「参加したい方はどしどしいらしてください。ウェルカムなんで!」。

4月20日、1日限定で無料配信

 わっかフェスは4月20日(日)に1日限定でオンライン無料配信します。申し込みはhttps://stagecrowd.live/8837729125/へ。締め切りは同日午後9時(受け付け状況により早く締め切る可能性があります)。視聴可能時間は同日午前0時~午後11時59分です。

 ステージの模様はBS朝日で5月4日午後1時~同55分に放送する予定です。

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