JR広島駅ビル内の書店「BOOK GALLERY KOBUNKAN」を訪れた作家の瀬尾まいこさん=2025年4月23日午後4時38分、広島市南区、興野優平撮影

 本屋大賞作家の瀬尾まいこさんが4月下旬、トークイベントのためJR広島駅ビル内の書店を訪れた。新刊を出した後にサイン会やあいさつのため書店を訪れる作家は珍しくないが、瀬尾さんはアポなしで突撃するほどの「書店好き」。なぜ書店を訪ねて回るのか。

 奈良市在住の瀬尾さんは「そして、バトンは渡された」(文芸春秋)で2019年に本屋大賞を受賞した人気作家。昨今、出版不況などで苦境が伝えられる書店を盛り上げたいとの思いから訪問を続けている。

 書店では書店員と本談議で盛り上がったり、サイン本を作ったり。だが、アポなしで書店を訪問すると、「4軒のうち1軒では誰?と言われます。スタッフの友達かと思われることも」。それも含めて書店回りが楽しいのだという。

 広島県内もこれまで3回ほど訪れた。「広島のみなさんはとても温かく迎えてくださるんです」。4月のトークイベントも、昨年末に広島市中区の書店「廣文館(こうぶんかん)フジグラン広島店」を訪れた際に持ち上がった企画だった。

 書店回りに目覚めたきっかけは、書店員の投票で選ばれる本屋大賞の受賞だった。長らく中学校の教員と兼業していたため、なかなか時間が作れなかったという。だが、専業作家になった後に本屋大賞を受賞。書店にあいさつにいくと、自分が想像していた以上に書店員が作家を応援してくれていると気づき、「一緒に仕事をしている仲間だ」と感じた。

 コロナ禍での自粛期間を経て、書店回りを再開した。すると、以前はあったお店が閉店していたり、経営が大変だと聞いたり。何かできないかと考え、24年12月、書店にまつわる思い出をつづったエッセー「そんなときは書店にどうぞ」(水鈴社)を出版した。印税はすべて辞退。版元も協力し、通常は売り上げの2割強程度である書店の取り分を、5割に増やして販売した。

 ただ、担当編集者に言われた言葉がずっと心に残っていた。「書店のためにも、読者のためにも一番いいのは素晴らしい作品を書くこと」。その思いを胸に4月、新刊「ありか」(水鈴社)を書き下ろした。母親との関係に悩みつつ、5歳の一人娘を慈しみ育てるシングルマザーの物語だ。「今の自分が書けるすべてを出し切って書きました」

 4月23日、JR広島駅の新駅ビル「ミナモア」に入る「BOOK GALLERY KOBUNKAN」で同じく本屋大賞作家の町田そのこさんと対談。会場は立ち見が出る盛況ぶりだった。「新刊を出すと、書店を回る理由ができるからうれしい」と瀬尾さん。インターネットですぐに探していた本が買える時代でも、書店の魅力は大きいと話す。

 「書店に行くと、書店員さんがおすすめするポップを見たり、置いてある本に手を伸ばしてみたりして、自分の知らなかった本に出会える。知らなかった本を開くことは、今まで自分が感じていなかった気持ちを動かすことのできる機会になるんじゃないか。そう思います」

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