トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談は、2月の決裂から一転、和やかに終わった。ロシア寄りの立場を強めるトランプ氏を引き留めるため、欧州主要国の首脳らはゼレンスキー氏に同行するという異例の対応をとり、結果的にはトランプ氏の「懐柔」に成功したとも言える。だが、ウクライナ側が求める即時停戦への動きはなく、将来のウクライナの安全確保に米国がどう貢献するかも曖昧(あいまい)なままだ。
トランプ氏の引き留めに腐心
「これはあなたではなく、あなたの妻宛てです」
トランプ氏との会談冒頭、ゼレンスキー氏はこう言って笑いを取った。ウクライナの子どもたちを守るようロシアのプーチン大統領宛てに手紙を書いたファーストレディーのメラニアさんに感謝し、自身の妻オレナさんからメラニアさんへの手紙を手渡した。場は一気に和んだ。
服装も、黒の襟付きシャツとジャケット姿。2月のホワイトハウスでの会談の服装が、トランプ氏の一部の支持層から無礼だと批判された反省を踏まえたものだった。トランプ氏には、感謝の言葉をこれでもかというほど伝えた。
米欧メディアによると、ゼレンスキー氏は今回、欧州各国からの支援を受けて1千億ドル(約15兆円)相当の米国製兵器を購入することを提案した。一方的な援助ではなく米国に金銭的な見返りがある取引を好むトランプ氏は、好意的な反応を示したという。
さらに、ゼレンスキー氏の援護射撃のためにホワイトハウスに結集した欧州首脳らは、トランプ氏を喜ばせた。「あなたのおかげで何かが変わり始めている」(イタリアのメローニ首相)、「あなたがプーチン大統領との対話を始めたことで、膠着(こうちゃく)状態が打破された」(北大西洋条約機構〈NATO〉のルッテ事務総長)。指導力をたたえた光景自体が、米国は世界のリーダーとして尊敬されるべきだと考える支持者たちには格好のアピール材料になる。
即時停戦に応じないプーチン氏にいらだちを示していたトランプ氏は米ロ首脳会談の後、再びロシア寄りの主張を展開しはじめ、対ロ制裁の強化も見送った。17日夜には「ゼレンスキー大統領が望めばロシアとの戦争はほぼ即座に終結できる」とSNSに投稿。トランプ氏が強硬な要求を出し、それに反発して機嫌を損ねれば、ロシアではなくウクライナを和平の障害だとみなしてトランプ氏が怒りだし、2月の会談の「再現」となる最悪のシナリオもあり得た。
こうした状況で、ウクライナや欧州側は意見の割れる課題で結論を急がず、団結の演出を優先。トランプ氏の引き留めに腐心した。24時間以内に戦争を解決できるなどとして2期目の当選を果たし、和平仲介のために米ロ首脳会談まで開いた手前、うまくいかないからといって簡単に手を引くこともできなくなっているトランプ氏の事情もある。
「私の期待に沿うものであっただけでなく、それを上回るものだった」
ドイツのメルツ首相はこう述べ、一連の会合で予想以上の成果を得たとの手応えを示した。
「安全の保証」「和平」つきまとう曖昧さ
だが、この日の一連の討議には曖昧さがつきまとった。
当初は、ロシアが占領する地域の扱いが焦点になるとの見方も強かった。15日の米ロ首脳会談後、トランプ氏がゼレンスキー氏らにあらたな「和平案」を提示し、東部ルハンスク州、ドネツク州をロシアに譲り渡すよう持ちかけた、と報じられていたからだ。
ゼレンスキー氏は18日、大…