「かたつむりのメモワール」の主人公グレース ©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA

 27日に公開される豪の長編人形アニメ「かたつむりのメモワール」は、かたつむりグッズのコレクションの中に身を潜めるように生きてきた孤独な女性の物語。脚本・監督は、本作とその前の長編「メアリー&マックス」で仏アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門クリスタル賞(最高賞)連続受賞という快挙を成し遂げたアダム・エリオットさん。来日したのでインタビューしました。まず、なぜカタツムリ?

 「最初の脚本ではテントウムシだった。ちょっと可愛すぎる。ブタ、アヒル、カエル……いろいろ悩んでカタツムリを思いついた。殻に閉じこもるし角を引っ込める。内向的で人生の痛みから逃げる主人公にピッタリだ。渦巻きもね、同じようなところをグルグルしている人生のメタファーになる。それと、カタツムリって前にしか進めないんだってね。哲学者キルケゴールの名言を思い出した。『人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない』。この物語にまさにつながると思ったよ」

 カタツムリの飛び出す目玉をあしらったニット帽をいつもかぶっているグレースが、ペットのカタツムリ「シルビア」に生い立ちを語る形で、物語は始まります。口唇口蓋裂(こうがいれつ)で生まれ、双子の弟はギルバート。父は大道芸の稼ぎでアニメを作り、グレースもアニメ作家を目指すが、父は交通事故に遭ったのち睡眠時無呼吸症候群で急死。別々の里親に引き取られ、ギルバートとは生き別れ。大人になり図書館で働く彼女は唯一の肉親である弟との再会を夢見て、さみしさと空しさをコレクションで埋めます。タップダンスと大麻入りクッキーを楽しむ奔放な老女ピンキーと親友になり、金継ぎが趣味で男性不妊症のケンと恋に落ち、人生が上向きかけた時、ギルバートの里親から彼が焼死したと聞かされ絶望のどん底に……。

 「ハーヴィー・クランペット」で米アカデミー賞短編アニメ賞も受賞したエリオットさんの作品に共通しているのは、内気で孤独な人間を主人公にして、現実の厳しさや社会の冷たさをブラックユーモアで描いて、結末は主人公にやさしく寄り添う人生賛歌になっていること。そして、作品世界の造形とビジュアルが、不細工だが可愛い、ゆがんでいるが心地いい、暗いが温かい、という独特の味わいを持っていること。

 「グレースには、モノをため…

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