【ニュートンから】天文を愛した文学者たち(4)
四人目の文学者は,池澤夏樹さんだ。池澤さんは文学者の両親をもち,小説から随筆,翻訳と幅広いジャンルの作品を今日まで発表しつづけている。池澤さんは大学時代に物理学を専攻していた経歴をもち,天文学や宇宙をテーマやモチーフにした作品や科学に関するエッセイもしるしている。
ミステリアスな人物が「チェレンコフ光」を語る
1987年,第98回芥川龍之介賞を受賞した「スティル・ライフ」にも天文学の話題が登場する。この小説の冒頭には,主人公と,佐々井と名乗るミステリアスな人物がバーで語るシーンがある。水の入ったグラスをじっとみつめる佐々井は,主人公に「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」と語る。
佐々井は主人公に,「チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると,光が出る。それが見えないかと思って」と説明する。チェレンコフ光とは,電荷をもった粒子が媒質の中を運動する際に,放出される青い光のことだ。光は最も速度が速い物質だ。だが,水などの液体や気体の中を通過するとき,光の速度が遅くなることがある。このとき,粒子が物質中での光速度よりも速く物質の中を移動すると,チェレンコフ光が出ることがある。
カミオカンデの発見に衝撃を受けた
佐々井の発言の背景にあるの…