南アルプスと中央アルプスに抱かれた長野県の飯島町。そこに「原田(はらた)屋」というリンゴ農園がある。

 「ふじ」を中心に200本ほどのりんごの木を育てて60年余り。園主の宮脇寛行さん(73)と妻の明子さん(72)は、約20年前から化学肥料を使わず、農薬も最低限しか使わない。

 6月中旬のこの時期、2人は直径4センチほどになった実を間引く作業に忙しい。選別すると、残した実に養分が集まり、秋においしいりんごができる。

 「いや~、愉快だった」。宮脇さんは、昨秋のことを思い出すたびに、笑ってしまう。

リンゴの花をチェックする「原田屋」の宮脇寛行さん=2025年5月10日午前11時46分、長野県飯島町、中島隆撮影

 実のところ、昨秋の収穫は、さんざんだった。地域のりんご農園でカメムシがのさばった。原田屋のりんごも、半分以上がやられた。カメムシに食われると黄色いデコボコができて、農協に出荷できない。

 「全部、『お墓』行きだな」

 「お墓」とは、農園の横に掘った穴のこと。出荷できないりんごを捨て、土の中に埋めるのだ。

 りんご一つ一つが、宮脇さんには手塩にかけた子どものようなもの。

 悔しい――。

 「親方、私も悔しい」

 そう宮脇さんに声をかけた女性がいた。

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